英上院は9日、国内市場法案から、欧州連合(EU)離脱協定の北アイルランド国境問題に関わる取り決めをほごにする条項を削除する案を433対165の賛成多数で可決した。同法案を推進する政府にとっては敗北となるが、ジョンソン首相は下院でこの修正を覆すことを目指している。同法案を巡っては、EUが法的措置を開始しているほか、米国のバイデン次期大統領も強く反対しており、EUや米国との貿易交渉の行方に影を投げかけている。
与党・保守党からは、44人の上院議員が造反した。造反議員の1人であるマイケル・ハワード議員は採決に先立ち、同法案は「約束を破り、国際法に違反し、1年足らず前に署名した協定をほごにするもの」と訴えた。
政府報道官は、上院の修正案で削除された条項について、「下院で再度、提案する」とコメント。「これらの条項は、英国の国内市場の完全性と和平プロセスの成果を守るために必要な安全策」とあらためて主張している。
国内市場法案は、EU離脱後の移行期間の終了後にイングランドとスコットランド、ウエールズ、北アイルランドの間で円滑な通商を維持することが本来の目的。ただ、離脱協定に含まれる「北アイルランド国境問題にかかわる議定書」の一部を英政府の一存で無効にできる条項が含まれる。同議定書は、英・EU間で貿易協定がまとまらなかった場合に、アイルランドと英領北アイルランドの間の厳格な国境検査を避けるための取り決めだが、ジョンソン首相は、EUの現在の考え方でいけば、英国本土と北アイルランドの間で過度の製品検査や関税が課される恐れがあるとしていた。
EUはかねて同法案の離脱協定に反する部分の撤回を英政府に要求していたが、この期限が守られなかったため10月初めに法的措置を開始した。また、米国のバイデン次期大統領はかねて、同法案が1998年の北アイルランド紛争終結時に結ばれたベルファスト合意に反する恐れがあるとして強く反対している。同氏は先に、ブレグジットの結果としてアイルランドと北アイルランドの間に厳格な国境検査が再導入されれば、米国の対英貿易協定はあり得ないとの考えを示している。[EU規制]
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