英国政府は13日、欧州連合(EU)離脱協定に含まれる「北アイルランド国境問題にかかわる議定書」の一部を一方的に破棄する法案を議会に提出した。英本土から北アイルランドへの物品の流れを円滑にするため、北アイルランド内で消費される製品向けに通関検査の不要な「グリーンチャネル」を創設するとしている。欧州連合(EU)はこれに反発し、法的措置を検討する方針を示している。
北アイルランド議定書では、アイルランドと北アイルランドの間に厳格な国境を設けることを避けるため、英国のEU離脱後も北アイルランドがEUの単一市場にとどまることになっている。この結果、英本土と北アイルランドの間の物品のやりとりには一定の通関検査が発生し、北アイルランドの企業や住民に影響が生じている。
政府はこの日に提出した「北アイルランド議定書法案」で、北アイルランド向けの製品には「グリーンチャネル」を適用し、EUではなく英国の製品基準に準拠することを認める方針を示した。一方、北アイルランド経由でEU域内に入る製品向けには、北アイルランドに入る際に厳格な通関検査を伴う「レッドチャネル」を設置する。紛争処理の管轄権は、欧州司法裁判所から独立の仲裁機関に移す。また、北アイルランドの企業や住民が英本土と同じ減税や国家補助を受けられるようにするとしている。
これに対し、EU側の交渉を担当する欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長(機関間関係・先見性担当)は、「この法案は議定書の中核的要素の適用を停止するもの」と批判。「一方的な措置は相互信頼を損なう」とし、英国に対する法的措置を検討する方針を示した。アイルランドのコーブニー外務・国防相も、同議定書を含むEU離脱協定は、英国のジョンソン首相がEUと交渉して2020年に調印したものだが、英国政府はその後、同議定書の大幅な改定をEUに要求していた。EUは議定書の内容の再交渉には応じず、代わりに通関手続きや検査の簡素化など実務面の見直しを提案したものの、英政府はこれを拒否していた。
北アイルランドでは、親アイルランド派のシン・フェイン党が同議定書を支持する一方で、親英強硬派の民主統一党(DUP)は破棄を求めている。2月には、DUPのギバン首相が同議定書に抗議して辞任した。5月の北アイルランド議会選挙では、シン・フェイン党が史上初めて首位に立ち、DUPは第2党に転落。両党は1998年のベルファスト合意に基づき政権を分かち合うことになっているが、DUPは同議定書の問題が解決するまで政権復帰に応じない姿勢を示している。
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