英政府は17日、欧州連合(EU)離脱協定に含まれる「北アイルランド国境問題にかかわる議定書」に一方的に変更を加える国内法案を近く議会に提出すると発表した。北アイルランドの親英強硬派・民主統一党(DUP)が同議定書に抗議し、政権復帰を拒否していることが背景にある。法案では、英本土から流入する製品のうち、北アイルランド内で消費される製品については通関検査を免除するとしている。
トラス外相は下院での演説で、北アイルランド住民の一部が同議定書を支持していないため、北アイルランド自治政府が機能不全に陥り、1998年のベルファスト合意が緊張にさらされていると指摘。この法案の狙いは同議定書を破棄することではなく、ベルファスト合意に基づく同議定書の目的を果たすことと強調した。
国内法案では、同議定書の条項のうち、南北アイルランド間のヒトの移動の自由や単一電力市場に関する部分など円滑に機能しているものは残す一方で、製品の移動や基準、付加価値税(VAT)、国家補助規制、欧州司法裁判所の管轄権など問題となっている部分を解決するとしている。
中でも、英本土と北アイルランド間の製品移動については、北アイルランド内にとどまる製品向けの「グリーンチャンネル」を新設し、通関手続きの負担を軽減する方針。また、北アイルランド向けの製品については、企業が英国とEUの製品基準のいずれかを選べるようにするとしている。
英国はかねて、同議定書の大幅な改定を要求していたが、EUは内容の再交渉には応じない姿勢を示していた。EUは昨年10月、通関手続きの簡素化や検査の削減など実務面の見直し案を英国に提示したが、英政府は先に、これを拒否する姿勢を示していた。
北アイルランドでは、親アイルランド派のシン・フェイン党が同議定書を支持する一方で、DUPは破棄を求めている。2月には、DUPのギバン首相が同議定書に抗議して辞任した。DUPは先の北アイルランド議会選挙でシン・フェイン党に史上初めて敗れ、第2党に転落。ベルファスト合意に基づき、新政権では副首相を輩出することになっているが、同議定書を巡る問題が解決するまで、政権復帰に応じないとしている。
DUPのドナルドソン党首はトラス氏の演説について「遅すぎたものの歓迎する」とコメント。早急に法案を提出するよう英政府に求めている。一方、シン・フェイン党のマクドナルド党首は、政府は「法律違反を法制化しようとしている」と批判。英国の最大野党・労働党のダウティ影の欧州担当相も、同議定書を含む離脱協定を交渉し、これに調印したのはジョンソン首相自身であり、政府がこれに違反することは深刻な問題としている。
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