英国が欧州連合(EU)離脱協定に含まれる「北アイルランド国境問題にかかわる議定書」の見直しを求めている問題で、同国のトラス外相は10日、EUの提案を拒否する姿勢を示した。交渉により解決策が見つからなければ、同議定書の一部を一方的に破棄するとしている。同相の声明を元に、BBC電子版が伝えた。
同議定書では、アイルランドと北アイルランドの間に厳格な国境を設けることを避けるため、英国のEU離脱後も北アイルランドがEUの単一市場にとどまることになっている。ただこの結果、英国本土と北アイルランドの間でやりとりされる物品には一定の通関検査が発生するため、北アイルランドの企業や住民に影響が生じ、親英強硬派の住民の不満が募っている。
こうした中、英国はEUに対し、欧州司法裁判所の管轄権の廃止を含む同議定書の大幅な改訂を要求。EUはこれを受け、昨年10月に通関手続きの簡素化や検査の削減などを含む実務面の見直し案を英国に提示したが、同裁判所の管轄権廃止には応じなかった。
トラス氏は今回の声明で、EU案は肝心の問題に対処しておらず、「場合によっては状況を後退させる」と批判。現行の議定書により「価格上昇や通商の混乱が生じ、北アイルランド住民が英本土と異なる法規制や税金を課されている」とし、「これが政権不在を招き、平和と安定を脅かす」と訴えている。
消息筋によると、同氏はこの問題の長期化を避けるべきとの考えで、同議定書の一部を破棄する国内法の策定を検討している。
これに対し、EU側の交渉を担当する欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長(機関間関係・先見性担当)は、同議定書は国際条約であり、再交渉には応じられないとの姿勢を維持。また、アイルランドのマーティン首相はこの日、ジョンソン首相との電話会談で、英国が一方的な措置を取ることに懸念を表明し、同議定書の維持を求めた。
北アイルランドでは、親アイルランド派のシン・フェイン党が同議定書を支持する一方で、親英強硬派の民主統一党(DUP)は破棄を求めている。2月には、DUPのギバン首相が同議定書に抗議して辞任した。
先の北アイルランド議会選挙では、シン・フェイン党が史上初めて第1党に立ち、DUPは第2党に転落した。北アイルランドでは1998年のベルファスト合意に基づき、親英派と親アイルランド派の主要政党が政権を分かち合うことになっているが、DUPは同議定書を巡る問題が解決するまで、政権復帰に応じない姿勢を示している。
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