欧州連合(EU)は13日夕、英国本土から英領北アイルランドに出荷される製品の通関手続きを半減させるとともに、食品などの検査を約80%削減することを提案した。英国はかねてEU離脱協定に含まれる「北アイルランド国境問題にかかわる議定書」の見直しを求めており、これに対する回答を示した格好。ただ、英国が要求する欧州司法裁判所の管轄権の廃止には応じていない。
EUの提案は、◇衛生植物検疫◇通関◇医薬品◇北アイルランドの当事者の関与――の4項目から成る。このうち検疫については、食品など動植物由来の製品の検査を約80%削減すると共に、証明書類を簡素化する。ただしその条件として、英国が約束通り北アイルランド側に出入管理所を建設することなどを求めている。
通関については、英国がIT(情報技術)システムへの完全なアクセスを認めることなどを条件に、書式を簡素化し、手続きを半減させるとしている。また医薬品については、英国のメーカーが北アイルランドに製品を供給する際にEUの承認を得る必要をなくす。
EUは、これら一連の措置により、英国・北アイルランド間にいわば製品流通の「エクスプレスレーン」が創出されるとアピール。また、EUが域外からの輸入を制限している肉製品について、英国から北アイルランドへの出荷が可能となると説明している。
一方、英国はかねて同議定書の適用や紛争解決を巡る欧州司法裁判所の管轄を廃止するよう求めているが、今回の提案ではこの点に踏み込んでいない。代わりに、同議定書の適用を巡る透明性を高めるため、北アイルランドの住民や企業、自治政府との対話の場を拡大することを提案しているが、英国に不満が残る可能性がある。
同議定書では、アイルランドと英領北アイルランドの間に厳格な国境を設けることを避けるため、英国のEU離脱後も北アイルランドがEUの単一市場にとどまることになっている。この結果、英国本土と北アイルランドの間でやりとりされる物品には一定の通関検査が発生するため、北アイルランドの企業や住民に影響が生じている。
英国はかねて、同議定書の大幅な改定に向けた再交渉を要求しており、12日には同国のフロスト内閣府担当相が「まったく新しい議定書」を策定することを提案していた。ロイター通信によると、欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長(機関間関係・先見性担当)は今回の提案を「既存の議定書の新たな実施方法」と位置づけている。これを叩き台に英国と協議し、合意を目指す方針だが、これが拒否された場合には、これに代わる提案はないとしている。[EU規制]
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