スナーク英財務相は11日、2020/21年度の予算案を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大により、国内経済は一時的に大きな打撃を受けると予想。これに備え総額300億ポンドの経済刺激策を打ち出し、このうち120億ポンドを同ウイルス対策費に充てるとしている。追加支出の大半は借り入れによって賄われる見通しで、与党・保守党は10年にわたる緊縮財政に幕を引く格好となる。
新年度の予算は歳出が9,280億ポンド、歳入が8,730億ポンド。スナーク財務相は、「政府は国民の健康と経済的安定を守るため、できる限りのことをする」と強調。「我々は団結してこの試練を乗り越える」と訴えた。英中銀イングランド銀行が予算案発表に先立ち緊急利下げを発表したことにも言及し、これが景況感や消費者信頼感を押し上げるとの期待を示している。
最大野党・労働党のコービン党首は、新型コロナウイルスの「打撃を未然にかわす」各種の措置を歓迎する一方、緊縮財政で疲弊した国民医療制度(NHS)にとって、今回の対策費は「少なすぎるし、遅すぎる」と批判している。
予算案の骨子は以下の通り。
■新型コロナウイルス対策
NHSなど公共サービスの支援に向け50億ポンドの緊急対策基金を設置する。自主隔離を命じられた企業の従業員は、無症状でも初日から法定病休手当てが支給されるほか、病休の取れない個人自業主は、雇用支援手当を申請できる。従業員250人以下の企業には、2週間分の病休手当ての支払額を還付。小規模企業には最大120万ポンドの「事業中断ローン」を提供する。イングランドでは、小売り、娯楽、ホスピタリティー分野の課税見積額5万1,000ポンド以下の企業を対象に事業税を廃止する。
■企業・デジタル・科学
事業税の免除対象となる小規模企業に1社当たり3,000ポンドの補助金を支給。起業家控除は維持するが、生涯を通じた控除額の上限を1,000万ポンドから100万ポンドに引き下げる。遠隔地での超高速ブロードバンド展開に50億ポンドを投資する。核融合、宇宙、電気自動車(EV)の各分野の研究に計9億ポンドを追加投資する。デジタル出版物のVAT(付加価値税)は12月から撤廃する。
■運輸・インフラ・住宅
2025年半ばまでに、道路、鉄道、ブロードバンド、住宅に6,000億ポンドを投資する。高速道路や基幹道路の整備には270億ポンドを充てるほか、道路のくぼみ修理に向こう5年で25億ポンドを投じる。2021年4月から、外国人が不動産を購入する際に2%の印紙税を課す。
■環境・エネルギー
2022年4月にプラスチック包装税を導入。素材の30%以上がリサイクル不能な製品のメーカーや輸入企業には1トン当たり200ポンドの支払いを課す。建設機械などの「オフロード車両」向けの燃料補助は、産業分野の大半で2年以内に廃止するが、農業分野や鉄道運営分野への燃料補助は継続する。先に洪水被害を受けた地域向けに1億2,000万ポンドの緊急支援を実施するほか、洪水予防に2億ポンドを投じる。生態系保護に向け6億4,000万ポンドの基金を設立する。
■アルコール・たばこ・燃料
燃料税は10年連続で凍結。ビール、サイダー、スピリッツ、ワイン税も凍結する。たばこ税は引き続き引き上げられ、たばこ製品の物品税は、前年度に続き小売物価指数(RPI)に2ポイントを加えた比率で引き上げる。パブの事業税の割引額を1,000ポンドから5,000ポンドに引き上げる。
■個人所得税・賃金
国民保険料の支払い義務が発生する最低所得額を、8,632ポンドから9,500ポンドに引き上げる。これにより、50万人の支払い義務がなくなる見通し。
■成長率見通しを引き下げ
予算責任局(OBR)はこの日、2020年の国内総生産(GDP)成長率見通しを2018年10月の前回予算発表に示した1.4%から、金融危機以降で最低水準の1.1%に引き下げた。2021年には1.8%に加速するとみている。今年のインフレ率は1.4%と、昨年の1.8%からさらに減速すると予想。こちらも来年は1.8%への加速を見込む。財政赤字額を示す公共部門純借入額(PSNB)は、2019/20年度の474億ポンドから2020/21年度は548億ポンドに増えると予測。対GDP比では2.4%となり、2021/22年度には2.8%に拡大するとみている。公的債務残高は、2020/21年度には対GDP比で77.4%と、前年度の79.5%を下回ると予想。2021/22年度には75%に低下するとみている。ただし、これらの見通しには、新型コロナウイルス対策の支出や、この日に発表された緊急利下げの影響は反映されていない。
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