英国と欧州連合(EU)が将来的な貿易関係を巡る交渉方針で早くも対立している。ジョンソン首相は3日、EU・カナダ間の包括的経済貿易協定(CETA)をモデルとした「カナダ型」の自由貿易協定を目指す方針を打ち出し、EUルールに従うことは一切拒否すると明言。これが実現しなければ交渉打ち切りも辞さない構えを示した。これに対し、EUのバルニエ首席交渉官は、英国のEU市場へのアクセスはEUルールへの準拠が条件になると、あらためて強調している。
ジョンソン首相はこの日の演説で、EU市場への完全なアクセスを得る代わりにEUのルールや裁判所に従うノルウェー型よりも、「市場を開放しつつEUルールの完全適用を避けるカナダ型」に似た自由貿易協定を目指すと話した。「万が一、これが実現しなければ、EUとの既存の離脱協定に基づいて貿易を行う必要がある」と述べ、合意の有無ではなく、カナダ型か限定的なパートナーシップの枠組みに基づくオーストラリア型かの選択になるとの見方を示している。
同首相はまた、「競争政策、補助金、社会保護、環境」などについて、英国がEUルールを一方的に守ることは拒否し、EUも英国のルールを受け入れるべきと訴えた。安全保障や市民の権利保護については、互いの自治を犯さない範囲での実務的な合意を目指すとしている。また、懸案事項となることが予想される漁業権については、何らかの取り決めを結ぶ用意があると述べ、1年ごとに交渉を行う方針を示唆した。
一方、バルニエ首席交渉官はこの日、EU加盟27カ国に交渉方針案を提示。関税や割当量のない「極めて野心的な貿易協定」を提案する姿勢を示す一方、英国はその条件としてオープンで公正な競争を維持するための「平等な規制環境を具体的かつ実質的に保証する」必要があると強調した。EUに流入する製品はすべて健康安全面などでEUの基準を満たす必要があり、国境検査の対象となると指摘。英国がEUと共通の基準を数多く受け入れるほど、EUはより良いアクセスを提供できるとした上で、「英国のこの問いへの答えは今後、根源的な意味を持つ」と忠告した。漁業権については、今後も双方向のアクセスを認め合う必要があるとしている。
2016年に調印されたCETAでは、EU・カナダ間で取引される製品の98%で関税を撤廃。互いに相手市場に輸出する製品は、相手側の規制に準拠する必要がある。また、公共調達市場も相互開放されている。ただ、金融サービスも含め、英経済の8割を占めるサービス分野はほとんどが対象外。一方、EUとオーストラリアの貿易は現在、2008年に結んだごく限定的な「パートナーシップ枠組み」に基づいている。野党・自由民主党はジョンソン首相がこれを持ち出したことについて、「名ばかりの合意で合意なき離脱と変わらない」と批判している。
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