英下院(定数650)は19日、ジョンソン首相が欧州連合(EU)と合意した離脱協定の修正案の採決を先送りした。合意なき離脱の確実な回避を目指す超党派議員団が「離脱関連の国内法が成立するまで離脱案の承認を保留する」との修正動議を提出し、これが本採決の前に可決されたため。ジョンソン首相は法律に基づきEUに離脱延期を要請する書簡を送ったが、サインはせず、延期が本意ではないとの立場をにじませた。
英下院はこの日、37年ぶりとなる土曜日の審議を実施。ジョンソン首相は、英国とEUが合意に達した離脱協定案の採決を目指していたが、修正動議が賛成322票、反対306票で可決された。最大野党・労働党をはじめとする野党が賛成に回ったほか、新たな協定案への反対姿勢を表明していた与党・保守党に閣外協力する英領北アイルランドの民主統一党(DUP)も賛成票を投じた。
この修正動議は、元保守党のオリバー・レトウィン議員の案で、離脱協定案を英国の国内法に落とし込む作業を終えるまで、下院での離脱協定案の承認を先送りする内容。下院で離脱協定案が承認された後に、上院で却下されるなどして合意なき離脱になってしまう可能性を排除する意図がある。この案が可決されたことにより、ジョンソン首相は離脱協定案の採決をする前に、「離脱協定法案(WAB)」の成立を優先させる必要が生じた。EUとの合意にこぎ着けても、英議会で道を阻まれるという、メイ前政権が直面した失敗を繰り返した格好だ。
英議会が19日までにEUとの合意を承認しなければ、来年1月31日までの離脱延期をEUに要請するよう義務付けた通称「ベン法」に基づき、ジョンソン首相は同日夜にEU側に離脱延期を求める書簡など3通を送った。1通目はカバーレターで、2通目はドナルド・トゥスク大統領宛てに離脱延期を求める内容。しかし、かねて10月末の離脱を主張しているジョンソン首相はこれにサインをしなかった。そして3通目は、宛名を「親愛なるドナルドへ」とした首相個人としての書面で、「延期要請を許可するかはEUが決めることだ」と前置きし、「私自身の考えと、英政府の立場としては、これ以上の延期は英国とEU加盟国の利益を損なう」と離脱延期を望まないとの考えを強く示した。これにはジョンソン首相の直筆のサインが入っている。トゥスク大統領は書簡を受け取ったとした上で、EU首脳陣と対応について協議するとコメントした。
英政府は今後、離脱協定法案(WAB)の成立を急ぐ方針。しかし、保守党が議会で過半数を握っていない上、法案に対して上下両院で修正動議が提出されることも予想されるため、成立は一筋縄ではいかないとみられている。ジョンソン首相は、今回の修正動議に賛成した中にも、離脱協定案自体を支持する議員は多数いるとして、10月31日までに必要な手続きを終えられると自信を示している。
下院の定数は650だが、伝統的に登院しない北アイルランドのシン・フェイン党の7議員と議長と副議長3人の計11人が投票に参加しないため、法案を通すために必要な絶対的過半数は320票となっている。
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