英政府は11日、合意なき欧州連合(EU)離脱に伴い想定される最悪のシナリオをまとめた公式文書を初めて公表した。暴動や食料品価格の上昇、医薬品の不足、金融サービスの混乱などの可能性が示されている。政府はこれまで、この情報を機密としていたが、議会閉会直前に下院で政府にその公表を義務付ける案が可決されたことを受け、この日に政府ウェブサイトに掲載した。
通称「イエローハンマー文書」と呼ばれるこの文書は、各省庁が合意なき離脱に備えて取り組む緊急対策計画「イエローハンマー作戦」の中で8月2日に作成されたもの。政府はこれまで公表していなかったが、8月に流出しサンデータイムズ紙に掲載されていた。
この文書によると、◇英仏海峡を渡る貨物トラックの最大85%はフランスの税関に対応しておらず、物流が現在の50~70%の水準に回復するまで3カ月かかる◇一部の生鮮食品が不足し価格が上昇する◇医薬品の不足が最大半年続く◇低所得者や弱者が特に大きな影響を被る◇ロンドン・セントパンクラス駅や英仏海峡トンネル、ドーバー港などで旅行客が足止めになる◇数十万人への水の供給が滞る◇EUとの国境を越えた金融サービスの一部に混乱が生じる◇全国で抗議運動が展開され暴動も起きる◇地域交通の混乱により燃料の配送が遅れる◇一部の中小企業が閉鎖に追い込まれる――といったリスクが見込まれている。
また政府は今回、公開した文書のある段落を墨で消しているが、サンデータイムズの報道では、ここには国内製油所へのリスクが記載されていた。EUの関税により英国のガソリンの輸出競争力が低下する一方、政府がガソリンの輸入関税を0%とすることを決めているため、2カ所の製油所が閉鎖に追い込まれ、約2,000人が失職する恐れがあるとしている。
最大野党・労働党のスターマー影のEU離脱相は、「政府がこうした明白な警告を無視し、国民の目から隠すのは極めて無責任」と批判している。
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。