英下院(定数650)は15日、欧州連合(EU)離脱協定を反対432票、賛成202票で否決した。メイ首相は投票直前の演説で同協定への支持をあらためて訴えたものの、野党各党や与党・保守党の造反議員を説得するには至らず、230票の大差という予想された通りの歴史的敗北を喫した。最大野党・労働党のコービン党首は、政権奪取に向けた解散総選挙を見据え、即座にメイ政権に対する不信任動議を提出。16日午後7時(現地時間)に不信任決議案の投票が実施される見通しだ。
保守党からは、118人が造反した。この中には、合意なしの離脱も辞さないEU離脱強硬派や、2度目の国民投票を求めるEU残留派が含まれる。一方、労働党をはじめとする野党も予告通り反対票を投じた。メイ首相は、ソフト路線のEU離脱を求める労働党議員の取り込みにより、自党の造反議員数を相殺することを狙ったものの、実現しなかった。また、保守党に閣外協力する北アイルランド・民主統一党(DUP)は、同協定に含まれるアイルランド国境の「バックストップ(安全策)」への懸念が最後まで解消されず反対に回った。
政府がこうした重要法案を通せなかった場合、首相が辞任するのが通例だが、メイ首相はブレグジットを遂行するため、続投する意向を投票結果が判明した直後に表明した。もし、不信任決議案が可決された場合、14日以内に新たなリーダーに対する信任投票が実施されるが、これが否決された場合は総選挙となる。ただ、離脱協定への反対が政権の否定に直結するわけではなく、離脱協定に反対票を投じたDUPは既にメイ首相を支持する方針を表明。離脱強硬派のジョンソン前外相も、離脱協定については「今や死んだ」と否定しながらも、信任投票ではメイ首相を支持する意向を示している。
下院は先に英EU離脱法を改正し、同協定が否決された場合、政府に3日以内にその後の方針を示すことを義務付けていた。メイ首相は引き続き信任を得た場合、政党の垣根を越えた議論を通じ、ブレグジットに向けた解決策を模索することを提案。また、議員に向けた声明の中で、21日に代替案を下院に提出する方針を示した。
トゥスクEU大統領は、今回の結果は非常に残念だとした上で、英国に一刻も早く今後の方針を明確にするよう求めた。EUはこれまで離脱協定を巡る再交渉を拒否してきたが、ドイツのマース外相はこの日の採決に先立ち、英下院で同協定が否決されれば再交渉に応じる可能性を示唆した。ただ、「同協定の内容が根本的に変わることはない」との見方を示している。
英国は3月29日にEUを離脱することが決まっているが、同首相がEUに離脱期限延長を求める可能性も高い。タイムズによると、EU側も3カ月程度の延期に応じる構えを示している。離脱期限までに代案が承認されなければ、英国は何の合意もなしにEUを離脱することになるが、下院ではこれを阻止しようとする議員が大勢を占めるもようだ。
与野党ともかなりの数の議員が2度目の国民投票を支持しており、その実現には労働党が本腰を入れることが欠かせないとみられている。ただ、コービン党首は2度目の国民投票よりも、EUとより良い離脱条件の交渉を行うことを優先するとしている。
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