英政府は12日、英国と欧州連合(EU)の将来的な関係に関する白書を公表した。先に首相の公式別荘「チェッカーズ」で開いた閣議で合意したEUルールとの協調重視の「ソフト・ブレグジット」路線を具体化する内容で、企業のサプライチェーンなどに配慮し、関税のかからない「モノの自由貿易圏」の創設や、EUと製品基準を合わせる「共通ルールブック」の策定を提案している。一方、移民数の制限や司法面での独立に向け、ヒトの移動と欧州司法裁判所による管轄を形式上は終わらせ、EU離脱を選んだ民意を実現する姿勢を強調している。英政府はこれを元に、EUとの次回交渉に臨む。
経済面では、EUとの新たな経済パートナーシップを提案。その一環として、工業製品や農産物については摩擦のない無関税貿易を実現する。これに向け、製品・農産物の共通ルールブックを導入し、例えば新車の認証はこれまで通りいずれか一方で行えばよいとしている。また、欧州化学品庁(ECHA)や欧州航空安全局(EASA)、欧州医薬品庁(EMA)などモノの分野を管轄する機関のメンバーにはとどまり、規制や監督を受け入れる。英国は正式には欧州司法裁の管轄を離れるが、同裁判所を「共通ルールブック」の解釈者として認める。
通関手続きについては、追跡デバイスを利用して製品の最終消費地を見極め、英国とEUのどちらの関税が適用されるかを判断する“促進された関税措置”を段階的に導入する。これにより、アイルランドとの国境での煩雑な手続きを避けると同時に、英国が独自の関税を設定することを可能にする。
一方、サービスおよびデジタル分野については、英国独自のルールを策定し、ルールの相互承認も行わない。この結果、現行水準の相互市場アクセスは維持されないと警告するが、英国が規制から自由になることで将来的にはこれらの分野で投資するのに最適な場所になるとしている。金融サービスについては、EU加盟国の一つで事業免許を取得すればEU全域で事業を行える「パスポート制度」は適用されなくなる。新たな枠組みについては、統合された市場のメリットを維持すると述べるにとどまっている。
移民数の制限に向け、ヒトの自由な移動は終わらせると明言する一方で、サービス業従事者や留学生などの往来を容易にする新たな「モビリティー枠組み」を提案している。短期労働者にはビザ(査証)なし労働を認めるとしているが、詳細は明らかにされていない。
安全保障面ではEUとの協力を維持する。欧州刑事警察機構(ユーロポール)および欧州司法機構(ユーロジャスト)への参加も継続し、拠出金も支払う。
白書では、これら一連の協力関係を制度化するものとして、英国とEUが連合協定を結ぶことを提案している。連合協定は通常、EU加盟を目指す国が加盟の前段階としてEUと結ぶもの。昨年9月にはEUとウクライナの連合協定が発効している。
欧州委員会のバルニエ首席交渉官は、この白書を加盟各国と共に分析した上で、近く行われる対英交渉に臨むとしている。
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