英国のリーブス財務相は30日、秋季予算案を発表した。過去最大規模となる総額400億ポンドの増税により、危機的状況にある国民医療制度(NHS)などの公共サービスの立て直しと、経済成長の促進に向けた投資の財源を確保すると約束。公約通り所得税・国民保険料・付加価値税(VAT)の税率は据え置く一方、国民保険料の事業主負担やキャピタルゲイン税などを引き上げている。
リーブス氏は、「経済成長を促進するには、とにかく投資するしかない」とした上で、「投資を実現するためには、経済の安定を取り戻す必要がある」と強調。労働党政権は、14年にわたる前保守党政権下で混乱した「英国を再建する」と意欲を示した。
これに対し、7月の総選挙で大敗して野党に転じた保守党を率いるスナク前首相は、「労働党政権の課税と支出は、公約を大幅に上回る水準だ」と批判している。
予算案の骨子は以下の通り。
■増税
国民保険料の事業主負担率を4月から1.2ポイント引き上げ15%とするほか、事業主負担の発生する所得額を現行の9,100ポンドから5,000ポンドに引き下げる。キャピタルゲイン税は、低税率を10%から18%に、高税率を20%から24%にそれぞれ引き上げる。プライベートエクイティ(PE)企業幹部の取引利益に対する税率は、28%から32%に引き上げる。相続税の課税限度額の凍結を2030年まで延長するほか、100万ポンド超の農業・事業資産を相続税の対象とする。
■「働く人々」の保護
所得税・国民保険料・VATの増税は行わない。加えて現在、所得税と国民保険料の課税限度額を28/29年度からインフレ率に合わせて引き上げる。法定最低賃金に当たる「全国生活賃金」を6.7%引き上げ、1時間当たり12.21ポンドとする。
■たばこ・アルコール・燃料税
たばこ税は、インフレ率を2ポイント上回るペースで引き上げ、電子たばこ税も導入する。生ビールの税率は1.7ポイント引き下げる。燃料税の凍結と、1リットル当たり5ペンス引き下げる措置を共に延長する。
■運輸・エネルギー部門への課税
航空旅客税をエコノミークラスの短距離1便につき2ポンド引き上げ、プライベートジェットの旅客には追加で50%を課税する。石油・ガス企業の利益に対する超過利潤税の税率は予定通り35%から38%に引き上げ、期間も延長する。
■投資
航空宇宙産業に10億ポンド、自動車産業に20億ポンド、生命科学産業に5億ポンドをそれぞれ投資する。このうち自動車産業では、電気自動車(EV)の購入支援に向け購入初年の車両税を一段と優遇するほか、社用EVの税制優遇を延長する。エンジニアリング、バイオテクノロジー、医療科学などの分野の支援に向け、61億ポンドを拠出する。低価格住宅の供給に向けた26年までの支出を5億ポンド拡大する。
■教育・医療
私立学校の授業料を25年1月からVATの課税対象とする。一方、教育省の予算を実質19%引き上げ、公立学校の校舎の改築や教師の増員などに投資する。医療の日常支出と設備投資をそれぞれ226億ポンド、31億ポンド引き上げる。
■成長見通し引き上げ
予算責任局(OBR)はこの日、今年の国内総生産(GDP)が前年比1.1%拡大し、来年は2%に成長が加速するとの見通しを示した。春季予算時の見通しからそれぞれ0.3ポイント、0.1ポイント引き上げている。26年は1.8%の伸びを見込む。今年のインフレ率見通しは2.5%、来年は2.6%と予想。それぞれ0.3ポイント、1.1ポイント上方修正した。26年には2.3%に減速するとみている。
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