英政府は2日、欧州連合(EU)に対し、EU離脱後のアイルランド国境問題の解決策である「バックストップ(安全策)」の代替案を正式に提案した。英領北アイルランドは製品基準面ではEU単一市場にとどまる一方、EU関税同盟は離脱する。このため、一定の通関検査は必要となるが、国境での検査は行わないとしている。ジョンソン首相はこれを最終的な妥協案と位置づけ、これが受け入れられなければ合意なしに離脱すると強調している。
この案では、農畜産物を含む製品貿易について、アイルランド島全体を規制上の単一領域とする。北アイルランドが今後もEUの規制に従うことにより、国境での検査を不要にする。これについては、移行期間中に北アイルランドの自治政府および議会の承認を得た上で実施し、その後も4年ごとに継続の是非について承認を得るとしている。
一方、北アイルランドは英本土と共にEU関税同盟を離脱するため、アイルランドとの貿易では一定の通関検査を行う必要がある。ただこの検査は、輸出入業者の事業所またはサプライチェーンのいずれかの段階で行い、国境での検査は実施しない。通関手続きについては、移行期間中に「柔軟かつクリエイティブ」な解決策を見出し、現行ルールを改定・簡素化するとしている。
ジョンソン首相は欧州委員会のユンケル委員長に宛てた書簡で、「これは合理的な妥協案だ」と述べ、離脱期限の10月31日までの合意成立に取り組むよう呼び掛けた。
同首相はこの日、英イングランド北部マンチェスターで開かれている与党・保守党の党大会での演説で「EUが英国の妥協案に理解を示すことを期待する」とした上で、「この案に代わる選択肢は、合意なき離脱しかない」と訴え、「われわれはそうした結末への準備が整っている」と強調した。
この提案内容は、政府に閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)も支持している。
■ユンケル委員長「前向きな進展」
ユンケル委員長は、同日夕に行われたジョンソン首相との電話会談の後で声明を出し、10月17日に始まるEU首脳会議(サミット)に向けて協議を前進させようとする同首相の決意を歓迎するとコメントした。提案内容には前向きな進展があるとする一方、バックストップの規定に関してなど、今後数日以内にさらなる作業を要するいくつかの問題点があると指摘した上で、北アイルランド紛争に関するベルファスト合意が保全されることは大前提だとくぎを刺した。
「物理的な国境(ハードボーダー)」の阻止やアイルランド島全体の経済と南北協力維持、EU単一市場とその中でのアイルランドの地位の保護といったバックストップが持つ目的は全て満たされなければならないとも強調した。
欧州委は今後、英国からの提案内容についての精査に入る。これと並行して、EUと英国の交渉チームは数日間にわたりブリュッセルで協議を開く。またユンケル委員長は、アイルランドのバラッカー首相の意見にも慎重に耳を傾けるとしている。[EU規制]
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