英国のハント財務相は6日、下院で春季財政報告を行い、2024/25年度の予算案を公表した。総選挙前に行う最後の財政報告となるだけに、演説では「恒久的な減税」と「長期的な経済成長の支援」をアピール。国民保険料率の追加引き下げなどを打ち出したものの、国民の税負担は今後もなお増加する見通しだ。
同相は「インフレ率は減速に転じており、経済成長も間もなくプラスになる」と予想。金利はまだ高水準にあるものの、「今後は生活費支援だけでなく、恒久的な減税で家計を助けることができる」と強調した。ただ予算責任局(OBR)は、国内総生産(GDP)に占める税金の比率が28/29年度には37.1%に達し、コロナ禍前の水準を4ポイント上回るとの見通しを示している。
支持率で与党・保守党をリードする最大野党・労働党のスターマー党首はこの予算案について「失敗した党の最後の悪あがき」と強く批判。「国内経済はリセッション(景気後退)入りし、国家支出は予算を超過している。今回の措置を実施してもなお、税負担は過去70年で最も高い」と指摘している。
予算案の骨子は以下の通り。
■減税
4月から国民保険の保険料率を10%から8%に引き下げる。ハント氏は昨年11月の秋季予算でこの料率を12%から10%に引き下げたばかりだった。不動産売却益への最高課税率は、28%から24%に引き下げる。付加価値税(VAT)課税の対象となる売上高の下限を8万5,000ポンドから9万ポンドに引き上げる。
■たばこ・アルコール・燃料税
電子たばこの原料に26年10月から輸入税を課す。同時にたばこ税も引き上げる方針。一方、アルコール税の凍結は25年2月まで延長する。燃料税を1リットル当たり5ペンス引き下げる措置も、3月末までの予定だったが1年延長。燃料税の凍結も1年延長する。
■税収拡大
税収増に向け、海外に拠点をもつ納税者の国外収入を英国で非課税とする制度を25年4月に改定。セカンドハウス購入者向けの印紙税免除と、民泊向け不動産の税制優遇は、いずれも廃止する。エコノミークラス以外の航空旅客税を引き上げる。石油・ガス会社の超過利潤税の課税を1年延長する。
■企業支援
設備投資を全額、税控除の対象とする措置の対象をリース資産にも拡大する。洋上風力発電や二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)などのグリーン産業支援に1億2,000万ポンドを振り向ける。
■成長率見通し
OBRはこの日、今年のGDPが前年比0.8%拡大し、来年は1.9%に成長が加速すると予想。秋季予算時の見通しからそれぞれ0.1ポイント、0.5ポイント、上方修正した。今年のインフレ率見通しは2.2%となり、来年には1.5%と、中銀イングランド銀行が目標とする2%を下回るとみている。
財政赤字額を示す公共部門純借入額(PSNB)は今後、減り続け、25/26年度には2.7%と、政府が目指す3%を下回る見通し。公的債務残高は、24/25年度に対GDP比で88.8%となり、27/28年度に93.2%でピークに達した後、28/29年度は92.9%にやや減ると予想している。
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