英国のスナク財務相は27日、秋季予算案と歳出計画を発表した。国内経済が予想以上のペースで回復していることを背景に、公共サービスや技術革新、人材への投資を増やす一方、新たな財政規律を導入。今回の予算案で新型コロナウイルス危機に幕を引くわけではないとして上で、「コロナ後」の経済構築に着手する方針を示した。
スナク財務相は、英国経済は22年の初めにはコロナ禍前の水準に回復すると予想。最悪12%近くに達すると予想されていた失業率も、5.2%でピークに達する見通しであるほか、債務も減少に転じるなど、経済・財政運営は順調とアピールした。同相は今回の予算案が「英国民のためにより強力な経済を実現する」との考えを示している。
これに対し、最大野党・労働党のリーブス影の財務相は「家計や企業が直面する光熱費や物価の高騰について、何の解決策も示されていない」と批判。また、気候変動対策への言及がほとんどないと指摘している。
骨子は以下の通り。
■公共サービス
イングランドの都市部の公共交通機関や自転車道路に69億ポンドを投資。ただ、これには19年に約束した支出42億ポンドや既に発表済みの公共バス投資も含まれる。一方、国民医療制度(NHS)イングランドには59億ポンドを新たに投資。学校に26億ポンドを投じ、障害がある児童3万人を新たに受け入れるのに対応する。
■税金
来年に予定されていた事業税の引き上げを中止する。事業税の見直しにより事業所への投資を支援する。小売り、外食・ホテルなどのホスピタリティー産業、劇場やスポーツジムなどのレジャー産業を対象に、1年間にわたり事業税を50%減額。美術館・博物館向けの税金控除は24年3月まで延長する。銀行の利益に課すサーチャージの比率は8%から3%に引き下げる。
■航空
23年4月から英国内便の航空旅客税を引き下げる一方、飛行距離5,500マイル(8,851キロメートル)以上の長距離便の航空旅客税を引き上げ、エコノミークラスで91ポンドとする。イングランドの空港向けの資金援助は、6カ月延長する。
■アルコール・燃料
燃料税は新年度に引き上げる予定を中止し、12年連続で凍結。アルコール税は抜本的に見直し、税率を現行の15段階からアルコール濃度に応じた6段階に簡素化する。また、ドラフトビールへの課税を軽減しパブを支援する。
■住宅
向こう3年の住宅関連支出を240億ポンドとする。うち115億ポンドを投じて、造成済みの未使用地や荒廃地に18万戸の安価な新築住宅を建設する。
■地方再生
地方再生に向けた財務省の「レベリングアップ基金」からの第1回目の払い出しとして、イングランドの自治体100カ所に17億ポンドを支給する。
■雇用・賃金・スキル
全国生活賃金を来年4月から引き上げる。23歳以上では現在の8.91ポンドから6.6%上昇し、9.5ポンドとなる。スキル開発には向こう3年に38億ポンドを拠出する。うち5億6,000万ポンドを投じて、イングランドの成人の計算能力向上プログラムを立ち上げる。イングランドの16~19歳向けの新実務資格「Tレベル」に16億ポンドを投じる。
■研究開発(R&D)
R&Dに年間200億ポンドを投じ、R&D投資をGDP比で現在の0.7%から向こう3年で1.1%まで引き上げる。うち年間59億ポンドを中核的科学に投じる。排出量実質ゼロ化に向けグリーン産業の創出に300億ポンドを投じる。R&D投資の税控除については、クラウド・コンピューティングとデータ費用を含めるほか、23年4月からは国内での投資を優先する。
■成長率見通し
予算責任局(OBR)はこの日、今年の国内総生産(GDP)が前年比6.5%拡大するとの見方を示し、3月時点の予測から2.5ポイント上方修正した。22年は6%増を見込んでいる。今年のインフレ率見通しは2.3%と、前回予測1.5%から大きく引き上げ、来年には4%へとさらに加速するとみている。財政赤字額を示す公共部門純借入額(PSNB)は、20/21年度の3,199億ポンドから21/22年度は1,830億ポンドに減ると予測。対GDP比では、前年度の15.2%から21/22年度は7.9%に減り、22/23年度には3.3%に縮小するとみている。公的債務残高は、21/22年度には対GDP比で98.2%と、前年度の96.6%を上回るるものの、来年度以降はマイナスに転じ、25/26年度には90.5%に低下するとみている。
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