アフガニスタン情勢をテーマにした「EMBビジネスウェビナー」(エコノミック・メディア・ブレティン主催)が、7日開かれた。慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人氏が、アフガニスタンでの西側諸国の「敗北」が与える世界への影響について解説した。
鶴岡氏は20年間に及んだアフガン戦争について、米国側の失敗の原因を「介入の目的がぶれたこと」と説明。バイデン米大統領が「国家建設が任務だったことは一度もない」と述べるなど、本来目指していた民主国家建設が米国の目的でなくなったと解説した。アフガニスタン側の理由としては、中央政府が国土全体を支配するという意味での近代国家基盤が存在しなかったことであり、この点がイラクとも異なったと指摘。また、政府の腐敗ぶりなども政権崩壊につながった理由とした。
一方、欧州はアフガン戦争を「米国の戦争」ではなく「欧州の戦争」ととらえてきたと指摘。そのため、今回のバイデン米政権の一方的な行動に「憤り」を感じている半面、それに従わざるを得ない現実への「無力感」を持っていると説明した。今回のアフガン撤退に特に衝撃を受けているのは英国で、米国への過度な依存に対する批判が高まっており、米国に振り回されてきた欧州にとって「戦略的自律」を新たに追求するきっかけになると分析した。
タリバン政権の注目点については、 中国とロシアを皮切りに国際社会との関係構築を模索している点と述べた。また、西側国際社会からの援助が不可欠である実情も説明。 女子の教育や女性の就労・人権など国内政策での妥協や、国内テロへの支援を行わないかどうかが注目されると指摘し、これらにより「アフガンの安定、欧州を含む国外への移民・難民の数が左右される」と述べた。
さらに、今後、アフガニスタンを含むインド太平洋への欧州による関与の重要性が増していくと説明。欧州連合(EU)や、英国、フランスがインド太平洋でのプレゼンスを強化しようとしている現状を紹介した。また、英米豪3カ国によるインド太平洋地域の新たな防衛・安全保障の枠組み「オーカス(AUKUS)」についても解説し、オーカスが軸とする原子力潜水艦の建造は「永遠の同盟にしか出せない技術」であり、技術供与は異例と説明。特に英国が入っていることに着目し、今後数世代にわたって続く強固なコミットメントを行ったことは、同国が今年3月に打ち出した国家ビジョンの標語「グローバル・ブリテン」に沿うものとした。
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