英政府は16日、欧州連合(EU)離脱後のアイルランドとの国境を巡る方針説明書を公表した。英国とEUが唯一、陸続きで接する英領北アイルランドとアイルランドの間の国境について、ブレグジット後もパスポートや通関の検査は一切行わず、両国民が自由に移動できる共通旅行区域(CTA)を維持する方針を打ち出している。
英国はかねて、EU離脱に際しては移民の規制を優先し、EU単一市場や関税同盟から脱退する方針を示している。このため、アイルランドとの国境問題が複雑化し、EU離脱交渉の争点の1つとなっている。今回の方針説明書では、「税関や検疫も含め、物理的な国境設備の設置を避けることを目指す」と明言。日常的に住民や農業従事者、小規模な商業従事者が往来し物資の移動が行われている現状に配慮する必要性を訴え、通関申告を免除するなど「可能な限り摩擦のない陸上国境の実現」を目指すべきとしている。
また、1998年に北アイルランド紛争の終結と和平実現に向けて結ばれたベルファスト合意を全面的に支持する姿勢を強調。同合意で定められた通り、北アイルランドの住民には両国間の往来の自由を認めると共に、両国の二重国籍を取得する権利やアイルランド国籍に由来するEU市民権も認めるよう求めている。
英国とアイルランドなどから成るCTAとこれに付随する権利については、両国のEU加盟以前からある取り決めと指摘し、ブレグジット後も維持する方針を明示。両国民にはこれまで通り、互いの国での居住権や労働権、投票権、公共サービスや社会福祉補助を利用する権利を与えるとした。
北アイルランドの保守穏健派・アルスター統一党(UUP)はこの方針説明書を歓迎。また、プロテスタントの親英強硬派でメイ首相率いる与党・保守党と閣外協力を組む民主統一党(DUP)は、「建設的な一歩」と評価した。一方、親アイルランドのシン・フェイン党の指導者は「北アイルランドは英政府にとって些細な関心事に過ぎず、アイルランド政府が北アイルランド住民の権利保護に向け行動するべき」と話している。
この方針説明書は、EU離脱交渉における英国の立場を正式に示すもので、英政府が15日に公表したブレグジット後の英・EU間の関税のあり方を巡る提案書に続くもの。政府はこの提案書で、英・EU間の通関手続きなどの負担増を最大限に緩和する案や、一定の移行期間を設ける案を提示している。[EU規制]
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社NNAは一切の責任を負いません。