トゥスク欧州理事会議長(EU大統領)は7日、欧州連合(EU)加盟27カ国に対し、ブレグジット後の対英関係の枠組みに関するガイドライン案を提示した。英国が関税同盟および単一市場から離脱する方針を示していることについて、「負の経済的結果を招く」と警告。一部の産業のみ単一市場に参加するといった“いいとこ取り”は認めないとくぎを刺した。メイ英首相は先に、医薬品や化学品、航空分野では、引き続きEUの規制・監督下にとどまる意向を示していたが、これを拒否した格好。ガイドライン案は3月22日のEU首脳会議(サミット)に諮られる。
ガイドライン案は「関税同盟と単一市場から脱退すれば、摩擦は避けられない」と指摘。「対外関税や内部ルールに不一致が生じ、共通の機関および法制が失われれば、EU単一市場と英国市場がそれぞれ一貫性を維持するための監視や管理が必要になり、残念ながら負の経済的結果を招くことになる」としている。
また、産業別の単一市場参加を通じた“いいとこ取り”は、単一市場の一貫性と機能を妨げるため許されないと強調。さらに、「EUの意思決定に関する自治を守るためには、英国が第三国としてEU機関・団体に参加することは認められない」と明言した。メイ首相は先に、英国がブレグジット後もEUの規制・監督当局である欧州医薬品庁(EMA)、欧州化学品庁(ECHA)、欧州航空安全局(EASA)のメンバーにとどまる一方、これらの機関のルールを受け入れ、妥当な額の資金を拠出する姿勢を示していた。
紛争解決については、「欧州司法裁判所の役割が完全に尊重される」と述べ、その手段として「制裁や報復も含まれる」としている。メイ首相は貿易紛争が起きた場合には、欧州司法裁判所ではなく独立の調停機関が解決に当たることを提案している。
ガイドライン案は、英国との自由貿易協定(FTA)締結に向け交渉する準備がある一方、FTAはEU加盟国と同じメリットを与えたり、単一市場への参加を認めるものではないとした。製品貿易については、しかるべき原産地証明ルールに基づき無関税・数量無制限を実現するべきとしている。一方、サービス貿易については一定の制限を加えるとともに、ヒトの移動の自由に関する「野心的な条項」を含む必要性を訴えた。航空分野ではブレグジット後も相互接続を維持するため、航空運輸協定および航空安全協定を締結する必要があるとしている。なお、今回のガイドライン案では金融サービス業については触れていない。メイ首相は先に、英国の金融機関がEU全域で事業を行える「パスポート制度」の継続は望まないものの、英国とEUが規制の足並みをそろえることにより相互市場アクセスを確立する方針を示していた。
ガイドライン案はまた、「英国がブレグジット後に、競争や国家補助、税制、社会、環境、規制上の基準を大幅に緩め、競争上の優位を確保することを防ぐ必要がある」と警戒をあらわにしている。英政府は以前、EUから単一市場へのアクセスを拒否された場合、新たな経済モデルを採用し、EUに対する競争上の優位を狙う可能性を示唆していた。これを受けEU側には、英国が離脱後に法人税率や基準の大幅な引き下げに踏み切るとの懸念が広がったが、英国のデービスEU離脱相は先にその可能性を否定している。[EU規制]
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