英国の製薬大手アストラゼネカがオックスフォード大学と共同で開発した新型コロナウイルスワクチンの使用を見合わせる動きが、欧州で主要4カ国を含む十数カ国にも広がっている。ドイツとフランス、スペイン、イタリアは15日夕、「予防措置」として一時使用を停止すると発表。接種後に血栓塞栓症などで死亡した事例の報告を受けた動きで、その後にスロベニアとラトビア、キプロス、ルクセンブルク、スウェーデンも同様の措置を発表した。これに対し、欧州医薬品庁(EMA)や世界保健機関(WHO)は、ワクチンとの因果関係の証拠はないとして使用継続を推奨している。
EMAはこの日に出した声明で、「ワクチン接種後に血栓塞栓症を発症する人の比率は、人口全体と比べて高くないようだ」と指摘。「アストラゼネカのワクチンによって入院や死亡を避けられるメリットは、副作用のリスクを上回る」との見解をあらためて示した。EMAは現在、各報告事例についてワクチンとの因果関係を調査中で、19日に最終結果を報告する予定。
この件を巡っては、WHOもは16日に専門家会合を開いた。WHOはこれに先立ち、「現時点で、これらの事例がワクチンに起因するという証拠はない」と強調。「ワクチン展開を継続し、新型コロナウイルスから命を救い重症化を避けることが重要」と訴えている。
同ワクチンを巡っては、まずオーストリアが国内で接種から10日後に多発性血栓症で死亡した事例1件が報告されたとして、8日に特定バッチの使用を停止。エストニア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルクもこれに続いた。
その後、11日にはデンマークが同じバッチのワクチンの接種を受けた1人が血栓で死亡したとして、同ワクチンの全面的な使用停止を決定。ノルウェーやアイスランドも追随した。ノルウェーではその後、医療関係者1人が接種後に脳出血で死亡している。
一方、イタリアは別のバッチのワクチン接種後に深部静脈血栓症で死亡した事例を受け、このバッチのみの使用を停止していた。
その後、12日にはブルガリアが複数の基礎疾患のある女性が接種後に死亡したとして、全面的な一時使用停止を決定。15日にはアイルランドとオランダもこれに続いていた。
アストラゼネカのワクチンの使用や承認を見合わせる動きは、タイやコンゴ民主共和国(旧ザイール)、ベネズエラなど欧州域外にも飛び火しており、世界的なワクチン展開への影響が懸念されている。
同社は14日に出した声明で、EUと英国では8日までに肺動脈血栓症22件と深部静脈血栓症15件の発症事例が報告されているとした上で、「英・EUで接種を受けた1,700万人以上の記録を分析した結果、年齢性別やバッチ、国にかかわらず、これらの症状のリスクが高まるという証拠は見られない」と説明。「むしろ、接種を受けた人では、こうした症状の発症率が人口全体と比べて大幅に低かった」としている。
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