英国の製薬大手アストラゼネカが英オックスフォード大学と共同で開発した新型コロナウイルスワクチンの欧州連合(EU)への供給遅延問題を巡り、欧州委員会は1月29日、同社とのワクチン事前購入契約を公表した。同社はこの契約書で「合理的な範囲内で最善の努力」をすると約束しており、これが一定量の供給を義務付けるものかどうかが争点となっている。一方、欧州医薬品庁(EMA)はこの日、アストラゼネカのワクチンを条件付きで承認するよう欧州委員会に勧告している。
欧州委は昨年8月、同社と新型コロナウイルスワクチン最大4億回分の事前購入契約を締結。同契約書には、契約内容を非公開とする条項が含まれているが、欧州委はかねて透明性の確保に向け、これを公開するよう同社に要求しており、アストラゼネカもこれを受け入れた。公表された契約書には、同社はEUへの供給に向け、計4億回分の「生産能力を構築するために合理的な範囲内で最善の努力をすることを約束する」と記載されている。
同社のパスカル・ソリオ最高経営責任者(CEO)は先に、同社が契約書で義務付けられているのは、EUの需要を満たすために「最善の努力」をすることだけで、特定のスケジュールを順守する義務はないと主張していた。これに対しフォンデアライエン欧州委員長は、「最善の努力」が通用したのは、ワクチン開発が実現するかどうかがわからなかった段階のことで、ワクチンが存在する今となっては無効と主張している。
アストラゼネカは先に、オランダとベルギーの工場での生産遅延が原因でEUへの供給が予定を下回ると発表していた。BBC電子版がEU筋の話として伝えたところによると、EUは今年3月までに1億回分を受け取る予定だったが、実際の供給量はその約4分の1にとどまる見通しとなっている。これを受け欧州委は、生産遅延が発生していない英工場での生産分をEUに回すよう求めているが、アストラゼネカは、英国との供給契約により、英工場の生産分は同国に優先的に供給されるとしている。
■欧州での使用が承認
EMAはこの日、18歳以上への接種を条件に、アストラゼネカ製ワクチンの承認を欧州委に勧告。同社は13日に承認を申請しており、この日の承認勧告がかねて予想されていた。
欧州委は、正式な承認を経てただちに同ワクチンを展開する計画だったが、供給遅延によりその実現が危ぶまれている。同委は米国のファイザーとドイツのバイオ医薬品会社ビオンテックとも供給契約を結んでいるが、両社も先に、欧州向けの供給が1カ月遅れると発表していた。こうした中、スペインのマドリードでは向こう2週間、ワクチン接種計画を停止。イタリアなど一部加盟国はワクチンメーカーを提訴する構えを示している。
■ワクチン輸出を承認制に
こうした中、欧州委はこの日、新型コロナウイルスのワクチンのEU域外への輸出について、一時的に加盟各国の事前承認を義務付けると発表した。EUがワクチンの事前購入契約を結んでいる企業が対象で、期間は3月末まで。
欧州委のドムブロフスキス上級副委員長は「EU域内でのワクチン生産とその輸出を巡る明確さを高める狙い」と説明。「こうした透明性がこれまで欠けていた」と指摘している。近隣国支援や人道上の援助のための輸出は適用外となる。
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