フィリピンのモバイル決済事情
2019年5月27日
シニアリサーチャー 八幡 茜
フィリピンにおけるモバイル決済のいま
✔15歳以上の人口の約7割が、銀行口座を保有しないアンバンクト(Unbanked)層✔低所得者層はさらに保有率が低く、銀行口座保有率はおよそ3~12%
✔フィリピン政府は決済件数に占める電子決済の割合を、2017年現在の1%から、2020年までに20%へ引き上げる目標を掲げる
2019年はこうなる
✔シンガポールの配車サービス最大手グラブ(Grab)のモバイル決済サービス「グラブペイ(Grab Pay)」がリアル店舗で利用可能となり、フィリピンの決済事業でも台頭する✔インドネシアの配車サービス大手のゴジェック(Go-Jek)が、フィリピンでフィンテック事業に参入する
中国のアント・フィナンシャル、テンセントが現地ブランドに出資
電子マネーが発行可能な認可企業は、2018年1月現在43社あります。フィリピンのモバイル決済サービスにおいて最もユーザー数が多いブランドは、財閥アヤラ・コーポレーション傘下の「Gキャッシュ(GCash)」 、大手通信企業PLDT傘下の「ペイマヤ(Paymaya) 」、ブロックチェーンを活用するスタートアップ「コインズ・ドット・ピーエイチ(Coins.ph)」です。
GCashは、阿里巴巴集団(アリババグループ)系のアント・フィナンシャルサービスグループと、Paymayaは騰訊(テンセント)と資本提携しています。
フィリピンの電子マネー発行(EMI)ライセンス認可企業
昨年、配車サービス最大手Grabのモバイル決済サービスGrab Payが、正式にEMIライセンスを取得しました。これまでフィリピン市場では、自社サービスの利用料のオンライン決済が主で、店舗向け決済事業が展開できていませんでした。しかし、小売業に強い有力財閥SMグループと提携したことで、今後はGrab Payがリアル店舗の決済でも存在感を増す可能性があります。
他方、2019年1月には、 インドネシアの配車サービス大手Go-JekがCoins.phを買収したと発表しました。 Go-Jekのモバイル決済ブランド「ゴーペイ(Go Pay)」が展開されるかは未定ですが、同社はフィリピンを始め、東南アジアにおけるフィンテック事業を強化するとしています。
モビリティーの整備状況と交通系の決済サービス
フィンテック(購買データ)×モビリティーサービス(行動データ)
各社は、モバイル決済で繋がる新しい経済圏の構築を目指し、購買データや行動データの収集にしのぎを削っています。
フィリピンの配車サービス市場でGrabが独走する一方、2019年5月現在のところGo-Jekは、フィリピンでのモビリティーサービス事業に参入できていません。ただし、規制緩和がなされ、同社が主力事業の配車サービスを開始した場合には、決済の取引額が急増する可能性があります。
買収したCoins.phはリアル店舗の加盟店の少なさが課題ですが、行動データを含めた包括的なデータの獲得に向けて、 Go-Jekがフィリピンでどのような戦略を推し進めるか。モバイル決済市場は一層混戦の様相を呈しています。
詳細データは、NNA発行「東南アジアにおけるモバイルペイメントの現状と展望2019」に収録されています。
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