NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2024, No.107

【タイ】
展示会にファン殺到
浸透する日本アニメ

タイで若年層を中心に、日本のアニメ作品の「消費」が多様化している。次々に投入される新作に熱心なファンがつき、グッズやコスプレに波及しているほか、専門店「animate(アニメイト)」は期間限定で作品とコラボするカフェを展開している。首都バンコクでは7月と10月、スタジオジブリの作品を網羅した展示会が開催されるなど、作品を鑑賞するだけでない楽しみ方が定着しつつあり、大きな伸びしろを秘める。【NNAタイ Pravethida Anomakiti、小堀栄之】

バンコクのMBKセンターの7階には、「animate」が作品とコラボするカフェが併設されている=7月、バンコク(NNA撮影)

バンコクのMBKセンターの7階には、「animate」が作品とコラボするカフェが併設されている=バンコク(NNA撮影)

首都バンコク中心部の商業施設「MBKセンター」の7階には、映画館のほかフィギュア専門店やゲームセンターが並ぶ。チュラロンコン大学が近い学生街でもあり、夕方になると制服姿を多く見かける。なかでも多くの人が集まるのは、アニメ関連の書籍やグッズを多く取りそろえる「animate」だ。

店内には『ONE PIECE(ワンピース)』や『鬼滅の刃(やいば)』『名探偵コナン』といったおなじみの人気作品から、『ブルーロック』や『チェンソーマン』など比較的新しい作品のグッズも多数そろっている。本棚には最新刊に近い作品のタイ語版が並んでおり、ボリュームに圧倒される。店舗の向かいには、作品をテーマにしたカフェを併設。7月に店舗を訪れた際には『僕のヒーローアカデミア』とのコラボ中だった。

「animate」はタイ国内に2店舗を構え、オンラインでの販売も手がける。若者が店舗で商品を物色する姿は、タイでアニメを「消費」する多様な形が根付いていることを感じさせた。

タイのデジタル経済社会省傘下のデジタル経済振興機関(DEPA)が2022年に発表した予測によると、国内のデジタルコンテンツ産業の規模は21年に420億バーツ(約1,710億円)で、22年は537億バーツ、24年には624億バーツに達するとみられる。

21年のデジタルコンテンツ産業のうち、ゲームが370億バーツと大半を占め、アニメ関連は34億バーツ、キャラクターは4億8,600万バーツだった。アニメやキャラクター関連は20~22年にかけて新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で一時減速したが、回復基調にあるとされる。

日本の総務省の統計によると、20年度の放送コンテンツの輸出額は571億円。インターネット配信権や商品化権の伸びが全体を押し上げ、13年度から4倍以上に拡大している。このうち、アニメ関連が大半を占め496億円に達している。日本のアニメの輸出先としては東アジアが最も大きく224億3,000万円。東南アジアは27億3,000万円と、北米(133億8,100万円)や欧州(40億円)に次ぐ規模となる。

「ジブリ展」に行列

タイで日本のアニメ関連ビジネスの拡大を目指すのが、イベント企画・運営を手がける地場のライブネーション・テーロだ。同社は23年7月、首都バンコクの商業施設セントラル・ワールドでスタジオジブリ作品を展示する「ワールド・オブ・スタジオジブリ」を開催。前売り券だけで1万枚を売り上げた。

会場では歴代のジブリ作品の名場面を、模型や音楽、せりふとともに再現。来場者がキャラクターとともに写真を撮ることができ、『千と千尋の神隠し』や『となりのトトロ』といった人気作品の展示には、平日でも多くの人が行列を作っていた。約1カ月の展示会で、10万人の来場者を見込んでいるという。10月から12月には、2回目となる展示が実施された。

7月に首都バンコクで開催された「ワールド・オブ・スタジオジブリ」は、前売り券だけで1万枚を売り上げた(NNA撮影)

同社のラクシット最高執行責任者(COO)はNNAに「イベントの開催までに、8年かかった」と振り返る。ラクシット氏は熱心なジブリ作品のファンで、日本で同様のイベントを訪れ、タイでも開催したいと考えた。関連会社にコンタクトを取り、日本で自社の説明や企画の趣旨をプレゼンテーションし、承諾を得るまでに長い時間を要したと話す。「スタジオジブリにとってお金は優先的な問題ではなく、展示会の質やこちらの情熱が大事な要素だった」。

ラクシット氏は現在、日本などで上演された『千と千尋の神隠し』の舞台をタイに「輸入」するため、交渉を続けているという。同氏は「日本のエンターテインメント作品を、もっとタイに持ってきたいと考えている」と話す一方、「はじめから輸出することを想定しているディズニー作品と異なり、日本の作品は国外に持ち出すのが難しいことが多い」と指摘する。

大人になった「アニメ第1世代」

タイ国内で早くからアニメ産業の可能性に注目していたラクシット氏は「15年前に国内でアニメエキスポを開催しようとしたが、当時は産業の規模が小さ過ぎた」と振り返る。ただ、ここ数年で状況は大きく変化したと考えているという。

「ジェネレーションY(27~42歳、1981~96年生まれ)」と呼ばれる世代は、子どものころに親に反対されながらも『ドラえもん』や『シティ―ハンター』『コブラ』といった作品を見ていた。彼らが大人になり、子どもたちがマンガやアニメを見ることに反対しなくなった。コスプレの人気も、アニメやマンガの人気を支えている。

「ワールド・オブ・スタジオジブリ」の企画・運営を手がけたライブネーションのラクシットCOO=7月、バンコク(NNA撮影)

オンラインでの配信が普及していることで、アニメやマンガを見ることは以前より容易になり、質も上がっていることも大きい。米ネットフリックスや地場の「TrueID」といった有料の配信サービスでは、タイ語の字幕がついた主要なアニメ作品が、日本と時間差がほとんどないタイミングで配信されている。

ラクシット氏は「問題を1つ挙げるとすれば、現在はあまりに多くの作品が次々と投入されることだ」と笑う。1つの作品が数十話にわたって放映されていた時代と異なり、現在はシーズンごとに10~20話前後が配信されることが多い。シーズンが終われば視聴者の関心は別の作品に移り、そのたびに人気作品が入れ替わることになる。

日本のマンガのタイ語への翻訳を手がける出版社、サイアム・インターコミックスの関係者は「日本で発表された最新の単行本は、発行から4~5カ月前後でタイ語版を発行している」と語る。サイアム・インターコミックスが運営する専用アプリでは、毎週発表される最新話の翻訳版も掲載する。早ければ発表から3カ月ほどでアプリで紹介できるという。

同社のビチャイ編集長は「1つのマンガが人気になれば、単行本だけでなくアニメや映画、関連グッズの売り上げにつながる」とし、商機が大きいと話す。ビチャイ氏は「いま最も人気が高いのは『ONE PIECE』で、次は『呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)』が人気になる」と予想する。7月に始まったアニメ『呪術廻戦』のシーズン2は、タイでも日本とほぼ同じタイミングでタイ語の字幕付きで毎回配信され、大きな反響を呼んだ。サイアム・インターコミックスは、より多くの翻訳を手がける体制を構築し、事業を最低でも毎年20%成長させることを目指しているという。

(2023年8月7日 NNAタイ版より)

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