【フィリピン】
昭和レトロや高級路線
若者つかむ日系カフェ
米系チェーンが先行するフィリピンのカフェ市場で、日系企業が独自のコンセプトで差別化を打ち出そうとしている。キーコーヒー(東京都港区)は日本のトレンドである「昭和レトロ」感を再現しているほか、UCC上島珈琲(神戸市)も1990年代半ばから2000年代初期に生まれた「Z世代」をターゲットにした店づくりに動く。平均年齢が約25歳と若い同国で、かつて日本で流行した文化や若者の志向を取り入れて訴求する。【NNAフィリピン 中村元】
キーコーヒーのコーヒーは研修を受けた従業員が1杯ずつ丁寧に作っている=9月、フィリピン・タギッグ市(NNA撮影)
マニラ首都圏タギッグ市の新興開発区ボニファシオ・グローバル・シティー(BGC)の商業施設「MITSUKOSHI BGC(三越BGC)」内にあるキーコーヒーの1号店。平日午後に訪れると天井を高く取った店内には日がよく差し込み、1970~80年代の昭和歌謡がレトロ感を醸し出していた。
初めて来店したというボニー・サナさん(36)は「そばを通った際に店内の様子が見えるので来店したいと思っていた。ボタン一つでコーヒーを入れる他店と違い、店員が1杯ずつ丁寧に入れてくれるのが新鮮」と語った。
6月に全面開業した1号店は地場企業とフランチャイズ契約を結んで展開している。店舗面積は235平方メートル、座席数は約90席で広々としたスペースがある。レギュラーコーヒーは1杯約150ペソ(約400円)で売っている。
キーコーヒーの海外事業担当者は「営業開始から客足は好調で、1日平均約300人が来店している」と表情が明るい。客単価は1,000~1,500円、売上高は目標を10%上回るペースで推移している。
フィリピンでは米系カフェチェーンのスターバックスが400店超を展開し圧倒的なシェアを握っている。価格はレギュラーコーヒー1杯140ペソ程度だ。
後発組のキーコーヒーは、日本人スタッフから研修を受けた従業員がハンドドリップで1杯1杯を丁寧に入れ差別化を図っている。開けたバーカウンターでコーヒーを入れる様子が客席から見えるようになっている。
仕掛けはほかにもある。かつて日本の若者の間で流行した昭和レトロを再現し、写真映えするクリームソーダのほか、オムライスやナポリタンなど日本のカフェでなじみのある食事をそろえている。
店内にはインドネシアで自社生産するコーヒー豆など、直営店でも販売している家庭用商品を取りそろえる。1号店を試金石にさらなる店舗拡大を検討する。
昭和レトロを意識したクリームソーダやナポリタン=9月、フィリピン・タギッグ市(NNA撮影)
時短注文を採用
UCC上島珈琲フィリピンも、独自路線で顧客の心をつかんでいる。店内には自然光を多く取り入れ、テラス席を設置することでリラックスできる空間になっている。「スタンダードを創り出す」をコンセプトに、他店に先駆けて導入したサイホン式のコーヒーなど、都市部の富裕層や上位中間層向けに高級路線で売り込む。
UCC上島珈琲フィリピンのヒューバート・ヤング最高経営責任者(CEO)は「今後はZ世代の需要を取り込むべく新たなコンセプトを年内に始動する。最大30店開業する計画がある」と意気込む。
「Xpresso(エクスプレッソ)」のブランド名でテイクアウトをメインにコーヒーのほか、日本の味に寄せたサンドイッチなどを販売する。電子決済による事前注文を採用し、時間にシビアな都心の若者に訴求する。
現在は30店舗超をフランチャイズで展開している。12月には首都圏マンダルヨン市の商業施設「シャングリラ・モール」、同ケソン市の「ゲートウエー・モール」に新店舗を出すほか、2024年には中部バコロド州や南部ダバオ市での出店を計画する。
UCC上島珈琲は年内にZ世代をターゲットにした新たなコンセプトを始動する=10月17日、フィリピン・マカティ市(NNA撮影)
京都で誕生したコーヒー専門店「%アラビカ」がフランチャイズ方式で展開するフィリピン店舗は、スタイリッシュな内装が売りだ。白色を基調に洗練された統一感を強調している。
コーヒー豆の麻袋を飾ったり、そこからコーヒー豆をいったりするなど生産地を身近に感じられるような雰囲気がある。高級感を出すことで、所得層が高いBGCでの店舗展開に注力している。
若者向けにスタイリッシュさを前面に出した%アラビカの店舗=9月、フィリピン・タギッグ市(NNA撮影)
格付け会社フィッチ・グループの調査会社フィッチ・ソリューションズは、フィリピンでは中間層の拡大によりコーヒーの消費量が増えるとの見通しを示す。21年時点の予測では25年には約736万袋(1袋当たり60キログラム)の消費が見込まれる。
26年までに日本を追い抜き、欧州連合(EU)、米国、ブラジルに次ぐ世界第4位の消費大国になる見込み。
外資系カフェチェーンが販売するコーヒーの価格は平均的なフィリピン人にはまだ高価な部類だが、今後に中間層の厚みが増せば市場拡大の余地は大きい。日系企業は独自のコンセプトを武器に、成長市場に食い込みたい考えだ。
(2023年10月19日 NNAフィリピン版より)