【マレーシア】
目指せ「辰年ベビー」
ブライダル産業が復調
マレーシアでは、新型コロナウイルスの流行で壊滅的な打撃を受けたブライダル関連産業が回復している。感染対策緩和後の繰り延べ需要のほかに、華人系の間で縁起が良いとされる辰(たつ)年生まれの赤ちゃん(ドラゴンベビー)を期待し、年内の挙式を望むカップルが多いことが要因として指摘されている。一方、物価高で結婚関連サービスの諸費用も値上がりしており、招待客を厳選した披露宴が好まれる傾向が強まっているようだ。 【NNAマレーシア 降旗愛子】
新型コロナの収束でブライダル業界は復調。その一方で、挙式を望むカップルには物価高がのしかかっている(NNA撮影)
マレーシアでは2020年からの新型コロナ流行で厳格な感染予防策がとられ、結婚式など大人数での会食が制限される時期が続いたため、ブライダル関連業界は大打撃を被った。感染対策が緩和された22年以降は、情勢を鑑みて結婚を延期していたカップルを中心に、式場や結婚記念写真の撮影などブライダル関連サービスへの予約が伸びている。
スター(電子版)によると、地元の中華料理店の業界団体の代表は「新型コロナが収束した22年から23年にかけて、華人系の結婚披露宴の予約が75%増加した」と話している。他民族も同様の傾向で、マレー系の結婚式向けのケータリング業者も足元のビジネスは盛況。インド系の結婚式を執り行う寺院は24年半ばまで予約が埋まっているという。
華人系の結婚ラッシュには、星回りも関係している。現地の華人系には、24年のえとである辰年生まれの子どもは「クリエーティブで自信に満ち、粘り強い」と信じられているためだ。そのため24年の第1子誕生を期待して、23年内の挙式を望むカップルも多いとみられる。ブライダルメークアーティストの女性はNNAの取材に対し「メーキャップサービスの依頼はコロナ前の水準まで戻った」と話した。
首都クアラルンプール市内の外資系ホテルでこのほど挙式した華人系のトミーさんは、22年の新型コロナ関連の規制が緩和された時点で式場に予約を入れた。その際、自身は星回りにこだわりはなかったものの「両親から、結婚の日取りを寅(とら)年(22年)から卯(う=うさぎ)年(23年)に変えてほしいと頼まれた」と打ち明けた。
会場費は1割程度値上げ
世界的なインフレ加速の波は、マレーシアにも及んでいる。ブライダル業界も例外ではなく、式場や各種サービスまで値上げが続いている。スランゴール州プタリンジャヤの外資系ホテルでは、ウエディングプランで1卓(10人)当たりの最低料金を22年時点の2,200リンギ(約6万8,000円、税・サービス料込み)から2,400リンギへと1割近く引き上げたという。
価格改定の動きはカップルの懐を直撃している。クアラルンプールの高級ホテルで近く挙式するジャニーさんは、22年半ばに会場探しを始めた際に「どのホテルも、ウエディングプランが以前よりも10~15%ほど値上がりしていることに気づいた」と話す。ホテルだけでなく、イベントプランナーや式場の装飾などの関連サービスも価格が上がっていたという。ただ、人気の高い業者は、値上がりにもかかわらず予約でいっぱいだったとも指摘した。
ジャニーさんカップルは既に披露宴会場を押さえているため「もしサービス業者が値上げを要求してきた場合は、生演奏バンドを縮小するなど、その他の部分で費用を切り詰めなければならない」とも話した。
価値観多様化、招待客は厳選
マレーシアの伝統的な結婚式は、新郎新婦の親族や友人だけでなくそれぞれの両親の知り合いまで招待する盛大なもので、来場者は数百人以上にもなる。
ただ、クアラルンプールのホテルでウエディング・コーディネーターを務める女性は「新型コロナの流行収束後、挙式件数は回復しているが規模は小さくなった」と話す。以前は両親の意向をくんで、ホテルの宴会場などで盛大な披露宴を開くカップルが多かったが「価値観が多様化し、ガーデンウエディングやイベントスペースの利用、リゾートウエディングなどと選択肢も増えたことで、相対的にホテル挙式が減っている」との見方を示した。
結婚式が小規模になった理由として、コスト上昇を受けた資金繰りも影響しているようだ。華人系の披露宴の場合、招待客は「アンパオ(紅包)」と呼ばれるご祝儀を持参する。祝儀袋に入れる額は会場のランクに応じた食事代相当とするのが一般的だが、間柄に応じて金額に多寡がみられることもある。ブライダルメークアーティストの女性は、多くのカップルが「(より多くのご祝儀が期待できる)親しい関係の招待客に絞り込むことで、自己負担を軽減しようとしている」と話した。
(2023年7月4日 NNAマレーシア版より)