【フィリピン】
代替肉に参入ブーム
肉好き国民をつかめ
フィリピンで肉の味や食感を再現した植物性の代替肉ブームが起こり始めている。新型コロナウイルス下の健康意識向上や環境保護への関心が高まり、新興企業が市場攻略に動き出した。地場財閥企業や世界的なファストフードチェーンも広告支出を増やし市場形成が進む。一方でウクライナ情勢などを要因とした物価上昇により、早くも各社に逆風が吹いている。(NNAフィリピン Darlene Basingan)
ワース・ザ・フーズが展開する代替肉のメニュー=8月上旬、マニラ首都圏マカティ市(NNA撮影)
代替肉を手がける国内企業で有力視されているのが、2019年に創業したワース・ザ・ヘルス(WTH)フーズだ。商品の取扱店は全国に80店あり、自社製品を販売する飲食店「ウマニ・ビストロ」やバーも運営している。ステファン・コー最高経営責任者(CEO)は「22年は飲食店を10店出店する計画だ」と鼻息が荒い。
ワース・ザ・ヘルス・フーズが展開する飲食店=8月上旬、マニラ首都圏マカティ市(NNA撮影)
同社は21年、研究開発(R&D)費として120万米ドル(約1億5,900万円)を調達した。ベンチャーキャピタルの米ビッグ・アイデア・ベンチャーズや、菌類由来の肉を手がける英国発祥の大手クォーンを買収した食品大手モンデ・ニッシンのヘンリー・セサントCEOが出資している。
別の新興企業ザ・グッド・チョイシズの創業者、カミール・アコスタ氏は「大手企業の参入により広告が大幅に増え、代替肉に対する認知度が向上している。購買行動にも影響し始めている」と話す。同社は16年に事業を始め、大豆タンパク質や小麦を使った代替肉製品を12種類販売している。
アジアで消費少なく
フィリピン国内で代替肉が本格的に販売され始めたのは数年前にすぎない。世界大手のスターバックス・コーヒーやファストフードチェーンのバーガーキング、シェーキーズなどが、フィリピンで20年に代替肉製品を投入したことで火が付いた。
地場大手では財閥サンミゲル・コーポレーション(SMC)が「ビーガ(Veega)」、食品大手センチュリー・パシフィック・フード(CNPF)が「unMEAT(アンミート)」のブランドで、代替肉を使ったソーセージやツナ缶を販売している。ほかにもアグリナーチャーなど複数企業が参入している。
貿易産業省によると、代替肉に注目が集まったのは新型コロナ下で健康や栄養に対する国民の意識が向上したことが大きい。アフリカ豚熱(ASF)などの伝染病をきっかけに、食品安全への関心も高まった。同省関係者は「税優遇措置の申請も可能だ」と説明するが、市場規模はまだ小さく、企業の申請もないとみられる。
英ユーロモニターによると、20年のフィリピンの代替肉消費は5万9,300トンだった。東南アジアではマレーシアの9万4,300トン、インドネシアの7万5,400トンより少ない。中国が408万600トンと他国を圧倒し、日本が137万7,100トン、韓国が11万6,400トンと続く。
フィッチ・ソリューションズの食品・飲料アナリスト、ダミエン・イエオ氏によると、東南アジアではシンガポールやマレーシアで代替肉への関心が高く、投資マネーが集まっている。フィリピンは後れを取っているが、経済成長による所得向上で今後の市場拡大が期待される。
ワース・ザ・ヘルス・フーズが販売する代替肉商品=8月上旬、マニラ首都圏マカティ市(NNA撮影)
原材料は20%上昇
フィリピン人は野菜より肉を好む傾向があるものの、食の持続可能性や健康な食事に対する意識は高いとはいえない。ウクライナ情勢や米国の急激な利上げでフィリピン国内のインフレが加速していることもあり、消費者は価格志向が強まっている。新技術で割高な代替肉は手が届きにくい。
ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、小麦の国際価格は年初から6月までで平均約30%上昇した。大豆も約5%値上がりしている。フィリピンは小麦と大豆の大半を輸入に頼っている。大手企業は物価上昇や物流コストを一定の範囲で吸収できる余力があるが、新興企業は苦境に立たされている。
ザ・グッド・チョイシズのアコスタ氏は「原材料価格は15~20%上昇している。複数のサプライヤーは現金決済を求めるようになった」と明かす。早期に値上げしたいところだが、顧客を失うリスクが大きいと警戒する。
同社の代替豚肉は300グラムで300ペソ(約720円)だが、マーケットでは通常の豚肉が1キロ400ペソ前後で売られている。アコスタ氏は「物価高で価格差は以前より縮まっている。代替肉を選択する人は増えるだろう」と期待を示した。
ワース・ザ・ヘルス・フーズは、210グラムの代替肉を250ペソで販売しているが、同様の一般商品の価格は100ペソ程度と安い。原材料コストを踏まえ、5%以上の値上げが必要だが、むしろ値下げを迫られている状況だ。それでも22年の売上高は前年比で横ばいを目指している。
(2022年8月24日 NNAフィリピン版より)