NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2023, No.96

【マレーシア】
抹茶倍増「くりーむパン」
ムスリム向けて現地製造

菓子パンメーカーの八天堂(広島県三原市)は、世界のイスラム教徒(ムスリム)市場での展開を目指し、マレーシアで看板商品「くりーむパン」の販売を開始した。新型コロナウイルス禍で当初の計画から約2年遅れたものの、同国の経済成長や旺盛な消費意欲を背景に順調な滑り出しを見せている。マレーシアでは同社初の卸売りに取り組んでおり、コンビニエンスストアなどにも販路を広げる考え。インドネシアやフィリピンへの進出も視野に入れている。(NNAマレーシア 降旗愛子)

抹茶味の「くりーむパン」は、現地の消費者の好みに合わせて試行錯誤を重ねた(八天堂インターナショナル提供)

抹茶味の「くりーむパン」は、現地の消費者の好みに合わせて試行錯誤を重ねた(八天堂インターナショナル提供)

八天堂はこれまで、日本国内に加え、シンガポールや香港、台湾、韓国、オーストラリア、カナダでくりーむパンを販売してきた。海外では現地製造にこだわっている。

シンガポールでは、商品へのハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証は得ていないものの、主力商品であるくりーむパンに使用する原材料はハラル認証を受けたものを使用し「ムスリムフレンドリー」として販売している。マレーシアでもハラルの原材料を使用しているが、現在は「マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)からハラル認証を受けた工場で生産した商品」という位置付け。ただ今後、商品へのハラル認証取得を目指してJAKIMに申請する方向という。

シンガポールとマレーシアでは、定番の「カスタード」「抹茶」「チョコレート」「小倉あん」「生クリーム」の5種類を中心にくりーむパンを販売する。マレーシアではまず「カスタード」「抹茶」「チョコレート」の3種類でスタートしたが、追って5種類をそろえる予定だ。

日本らしさが感じられる抹茶のくりーむパンは、現地の消費者の好みに合わせるため試行錯誤を重ねた。日本では、ほのかに抹茶の風味が感じられる商品が好まれるが、シンガポールで同様のものを展開しようとしたところ「抹茶の味がしない」と不評で、クリームに混ぜる抹茶の量を倍増させた。マレーシアでは、事前の調査でシンガポール版の抹茶くりーむパンでも物足りないという人が多かったため、さらに抹茶の量を増やしている。

その結果、日本で販売している商品に比べてクリームがかなり濃い緑色となっているが、イスラム教において緑色は「聖なる色」。今後、贈答需要を視野に入れたギフト商品を開発する意向もあるという。

消費者の金銭感覚「上振れ」

マレーシアではここ2年、新型コロナの感染防止のため、経済活動が制限されてきた。それでも、マレーシア経済は完全に停滞していたわけではない。八天堂の海外統括会社である八天堂インターナショナルの石岡大輔最高経営責任者(CEO)は、2年ぶりに駐在先のシンガポールからクアラルンプールを訪れた際の印象を「街が大きく変貌し、躍動感が感じられた」と語る。

2年間の変化は、消費者心理にも表れている。最初にマレーシア進出を計画した際に行った消費者調査によると、くりーむパン1個の購入希望価格は平均5リンギ(約150円)で、6リンギだと購入をためらうという意見もあった。それが、新たに同様の調査をしたところ、購入希望価格は7リンギに上昇していた。中には「この品質なら、10リンギくらいしてもいいのでは」との意見もあったといい、石岡氏は「コロナ禍の2年で、消費者の金銭感覚は2~3割程度上振れしている」とみる。物価上昇が著しい新興国ならではの現象だろう。

八天堂はマレーシアでは、くりーむパンの値段を1個6.9リンギに設定している。5月初旬の販売開始以来、売れ行きは順調だ。

地方開拓へ冷凍品開発

八天堂は日本では駅ナカなどの形態で販売店を構え、シンガポールでも直営店のみでくりーむパンを販売している。だが、提携先の工場で委託生産するマレーシアでは、販売する場所はディスカウント店「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が首都圏2カ所に構える店舗が最初となった。同国では一般消費者への浸透に向けて卸売りを中心とする考えで、シンガポールのように直営店を構える計画は当面ないという。

卸売りという新たな挑戦の結果、販売チャンネルも広がる。マレーシアでは昨今、コンビニの成長が著しく、日系の「ファミリーマート」や韓国系の「CU」などが店舗を増やしている。八天堂にもこれらのコンビニチェーンから引き合いが来ており、一部で取り扱いが開始された。

一方、地方都市などへも販路を広げるため、冷凍品の開発にも取り組む。通常の冷蔵くりーむパンの賞味期限は製造日から3日だが、日本では既に冷凍品の開発に成功しており、賞味期限を製造日から180日までに延ばすことができている。ただ、日本で開発した冷凍品は原材料がハラル認証に対応していないため、マレーシアで独自に開発する必要があるという。

地元消費者に受け入れられる商品づくりに向けて、積極的に現地の有名企業や人気商品とのコラボレーションも進める考え。シンガポールでは現地社員の発案で、高級ドリアン「猫山王」を使用した限定品を投入したところ、1個5.5シンガポールドル(約540円)という価格設定にもかかわらず、まとめ買いをする人も現れるなど、ヒット商品となった経緯がある。

さらに東南アジア域内への進出も急ぐ。マレーシアに続いては、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシア、経済成長が期待されるフィリピンでの展開を視野に入れている。

(2022年5月24日 NNAマレーシア版より)

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