NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2023, No.96

【インド】
土に返る食器やカップ
搾りかす生かし製品化

世界で環境負荷削減の取り組みが本格化する中、農業廃棄物でできた生分解性の使い捨て食器を手がけるインドのエコウエア・ソリューションズが販路を拡大している。国内外の大手企業を顧客に持ち、インドと世界16カ国で累計3億個を販売。プラスチック製に比べ割高だが、環境意識の高まりを受け「価格は障壁ではなくなった」と創業者のリア・マズンダル・シンハル氏は語る。1年以内に電子商取引(EC)向けの包装材といった新製品を投入し、向こう3年で売上高を4倍にする目標を掲げる。(NNAインド 天野友紀子)

エコウエアの食器。原材料のバガスは、洗浄と加熱処理を経て、食器やカップに加工される(同社提供)

エコウエアの食器。原材料のバガスは、洗浄と加熱処理を経て、食器やカップに加工される(同社提供)

干ばつや大気汚染、ごみ処理問題といった環境課題を多く抱えるインドでは、若い起業家による環境負荷の低減を目指す取り組みが盛んに行われている。2009年設立のエコウエアも、そのうちの1社だ。創業者兼最高経営責任者(CEO)のシンハル氏は、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイと英ロンドンで育ち、大学では薬理学を専攻して米製薬大手ファイザーに就職。インドや東南アジアのプラスチックごみ管理のずさんな状況や、プラごみが人体に与える悪影響を改善・軽減したいとの思いから、母国に戻り起業に至った。

エコウエアは首都ニューデリーに工場を持ち、皿やボウル、ふた付きの弁当容器など40種類の使い捨て食器を生産する。月産能力は重量にして1,000トン。マイナス20度から140度までの耐熱性があり、電子レンジでの使用も可能だ。

国内ではサブウェイやスターバックス、シナボンといった米系大手飲食チェーン、海外ではUAEのエティハド航空を顧客に持ち、販売代理店を通じて国内外の企業の社員食堂などにも製品を供給。顧客数は約500社で、インド以外ではアジア、中東、アフリカ、欧州などの16カ国に輸出している。

バガスで作る食器、90日で分解

食器は、バガス(サトウキビの搾りかす)を中心とする農業廃棄物を原材料として生産する。バガスは製紙や発電など幅広い分野で使われる廃棄物であるため、サプライヤーとなる収集業者を見つけるのは簡単だった。だが、加工の技術を確立し、扱いやすさや耐熱性、安全性といった機能を担保しつつ市場に受け入れられる価格帯の製品を開発するのは容易ではなかった。シンハ氏は「バガスだけでなく稲わらを使って試したり、バガスと稲わらを混合したり、製品化に10カ月を要した」と語る。

100%植物由来の原材料で作られた食器は、90日間で完全に分解される。自宅の庭に埋めれば土に返るほか、仮に道ばたで廃棄されてもごみ捨て場に行き着いても、製品そのものが汚染を引き起こすことはない。

規制など追い風

創業者兼CEOのシンハル氏(エコウエア提供)

創業者兼CEOのシンハル氏(エコウエア提供)

公式サイトでは、皿は20枚入りで30.8ルピー(約49円)から、ボウルは同28.6ルピーから、弁当容器は同134.2ルピーから販売している。従来のプラ製品と比べ12%割高だが、「顧客企業は12%高い金額を支払うことを惜しまなくなった」とシンハル氏は話す。「消費者の間でも、自然派、オーガニック、高品質といった観点で食品を選ぶ傾向や、環境への意識が高まっている。健康を売りにする食品をプラ容器で提供したいと考える企業は存在しない」と強調。世界では中国製のバガスを使った使い捨て容器も出回っているが、「質や物流などの面で中国製よりも優位性があり、世界の大手企業に選ばれている」という。

販売は右肩上がりで増加し、年間売上高は約200万米ドル(約2億6,600万円)に達した。損益分岐点は、数年前に到達済みだ。インド政府は、22年7月から皿やカップを含む一部の使い捨てプラ製品を禁止にすると決定。使い捨てプラ製品の削減・禁止の動きは世界各地で加速しており、エコウエアにとって大きな追い風となる。

さらなる成長に向けて現在は、製薬、EC、ファッション業界向けの包装材の開発に取り組んでいる。各業界の潜在顧客と協議しながら開発を進めており、早ければ6~8カ月で新製品を発売できる見通しだ。シンハル氏は、環境負荷をなくすことが未来につながると前置きした上で、「成長していく自信がある。売上高は向こう3年で4倍を見据えている」と語った。

<メモ>

インドのプラごみ問題

インド環境・森林・気候変動省によると、19/20年度(19年4月~20年3月)のインドのプラごみ排出量は前年度比3.3%増の346万9,780トンだった。だが、国連開発計画(UNDP)によると、インドでは毎年1,500万トン以上のプラごみが発生。固形廃棄物を管理する体制が不十分であるため、4分の1しかリサイクルされておらず、埋め立て地の負担が拡大していると指摘する。

生分解性包装材市場

インドの調査会社モルドール・インテリジェンスによると、生分解性包装材の世界市場は20年時点で817億米ドル規模。年平均6.35%で成長し、26年には1,188億5,000万米ドルに達する見通しだ。大手メーカーは、欧州・豪系のモンディ・グループ、欧州のテトラパック・インターナショナル、欧州・豪系のアムコアなど。

(2021年11月11日 NNAインド版より)

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