NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2023, No.96

【インドネシア】
最短15分、本当だった
スピード競う食品配達

インドネシアのジャカルタ首都圏で食材を短時間で宅配するサービスが増えている。「最短15分」と配達時間の速さをアピールするだけではなく、24時間営業する事業者も出始めた。生鮮食料品や冷凍食品など高速配達へのニーズも高まっている。新型コロナウイルス下で登場した新たなサービスは競争激化の様相を見せ始めた。(NNAインドネシア 山本麻紀子、Merliyani Pertiwi、Anita Fildzah)

EC大手「トコペディア」も高速配達サービスに参入(同社提供)

EC大手「トコペディア」も高速配達サービスに参入(同社提供)

最短15分で配達するとアピールするのが、2021年9月に参入した「Astro」。サービス提供可能な地域は首都圏に限られているものの、24時間営業で顧客の囲い込みを図っている。

当初は、配車・配送サービスの大手の地場ゴジェックとシンガポール系グラブの2社が、バイクタクシー運転手の輸送力を活用して、提携するミニマートの日用品や食材などの商品を即時配達するサービスを開始。その後、野菜や食肉などの生鮮食料品を販売するアグリテック系アプリ「Sayurbox」「Segari」が、注文から1~2時間以内に配達するサービスを拡充し、高速配達サービスが普及し始めた。電子商取引(EC)大手「トコペディア」も乗り遅れまいと市場に参入している。

いずれのサービスも日用品だけでなく、精肉や生鮮食料品、冷凍食品を配達する。あらかじめカットされた食材を付属の調味料で調理するだけで作れるミールキットを提供する事業者もある。NNAが複数の事業者に尋ねたところ、売れ筋商品はおおむね「野菜、果物、乳製品」と消費期限の短い食品が多かった。

遅配ならバウチャー提供

「Astro」の商品には、あらかじめカットされた食材を付属の調味料で調理するだけで作れるミールキットもある

「Astro」の商品には、あらかじめカットされた食材を付属の調味料で調理するだけで作れるミールキットもある

短時間で商品が本当に届くのか、実際に時間帯を変えて注文してみたところ、Astroは3回のうち2回は20分以内に商品を受け取った。

一方、15分の高速配達をうたう事業者で、実際の配達時間が1時間後になることもあった。ただその際は、注文時点でスマホのメッセンジャーアプリ「ワッツアップ」に遅配の連絡があり、配達後は次回の買い物に使える2万5,000ルピア(約210円)相当のバウチャーが提供された。

日常的に高速配達を利用する消費者も増えているようだ。主婦のヌルさん(37歳)は「以前は通常宅配を頼んでいたが、夕方5時の配達予定が遅れて夜になったことがあり、高速配達を利用するようになった。食材が早く届けば、夕飯の支度にすぐ取りかかれる」と話す。

地場ITコンサルティング企業シェアリング・ビジョン・インドネシアのヌル・イスラミ・ジャファッド氏(デジタルスタートアップ、EC、フィンテック=ITを活用した金融サービス=担当)はNNAに対し、高速配達のニーズが高まった要因について「配達時間の予測がしやすく、利用者が商品を受け取る準備をできるようになったことが大きい」と指摘。注文が混雑して遅配が予想される場合には、利用者に事前に通知する配慮が求められるが、事業者にとっては技術的に難しいことではないと説明した。

高速配達を実現するにはドライバーの確保も欠かせない。多くの事業者は自社のドライバー数を明らかにしていないが、Sayurboxは200人以上のドライバーを抱えるという。

Astroのドライバーによると、以前は注文1件ごとに配達に出ていたが、今は受注が増え、近隣エリア分をまとめて配達している。担当エリアでは最近ドライバーの数が半分に減ったという。

プロモは必須条件

Astroは紙袋で商品を配達(NNA撮影)

Astroは紙袋で商品を配達(NNA撮影)

各社が提供するプロモーションも、高速配達の普及に一役買っている。「15万ルピア前後の買い物額が、割引後は約半額になった」という人もおり、前述の主婦ヌルさんは「複数のサービスを比べてからプロモが充実している方を利用する」と話す。友人にサービスを紹介すれば利用者と紹介された人の双方に割引券を提供する事業者もある。

一方、プロモ料金ではサービス提供にかかるコストをカバーできず、採算が取れなくなるケースもあり、米国では高速宅配を手がけるスタートアップが経営破綻した例が複数挙げられる。市場競争が激化する中で、新たなサービスを今度どのように展開していくのか、各社の採算性確保に向けた取り組みも鍵を握りそうだ。

ジャカルタの都市高速鉄道(MRT)駅構内に設置された「トコペディアNow!」の電子広告=ジャカルタ(NNA撮影)

ジャカルタの都市高速鉄道(MRT)駅構内に設置された「トコペディアNow!」の電子広告=ジャカルタ(NNA撮影)

(2022年7月19日 NNAインドネシア版より。一部更新)

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