NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2022, No.84

【タイ】
日本式焼き芋に行列
人気は「しっとり系」

日本からタイへのサツマイモの輸出額が近年、急速に伸びている。2017年に金額ベースで1億円前後だった日本からタイへのサツマイモ輸出額は、20年には約5倍の4億8,300万円まで増えた。今年も9月までにすでに昨年通年の輸出額を上回った。スーパーマーケットなどの店頭では焼き芋が日常的に販売され、常夏のタイで日本発の焼き芋の消費が定着しつつある。新型コロナウイルス感染症の流行による家庭内消費の増加も輸出の追い風になっていると考えられている。(NNAタイ 須賀毅)

スーパーマーケットの青果売り場に並ぶ日本産サツマイモと焼き芋=タイ・バンコク(NNA撮影)

スーパーマーケットの青果売り場に並ぶ日本産サツマイモと焼き芋=タイ・バンコク(NNA撮影)

日本財務省の貿易統計によると、今年1~9月のサツマイモ輸出額は14億9,410万円で、タイ向けは5億3,340万円で全体の36%を占めた。香港の5億7,000万円(38%)、シンガポールの2億5,350万円(17%)と合わせて、これら3カ国・地域で全輸出額の91%を占める。

アジア諸国で日本産サツマイモの消費が急増するきっかけを作ったのは、2014年度に千葉県がマレーシアのクアラルンプールで始めた「千葉県サツマイモフェア」と考えられている。同イベントでは、生産者団体や県立農業大学校と協力し、千葉県内の機械メーカーが製造した焼き芋機を活用した試食販売を行うとともに、店頭でのPRイベントを展開。イベントは現在も続けられている。今年1月に開催した20年度イベントでは新型コロナの世界的な流行の影響により一部縮小したものの本年度も開催に向けた準備を進めている。

千葉県農林水産部流通販売課の担当者は、NNAに対し「焼き芋は日本では冬の味覚の印象が強いが、『べにはるか』や『シルクスイート』といった、焼くだけでまるでスイーツになるような品種が東南アジアにおける焼き芋の消費を大きくけん引している。現地バイヤーからは県産サツマイモの品質が高く評価されており、強い引き合いもあることから、県産サツマイモにとって東南アジアは有望な市場と認識している」と説明した。

同イベントに焼き芋機を提供した小野食品機械(千葉県東金市)の担当者によると、サツマイモには食感により「ほくほく系」「しっとり系」「ねっとり系」に分けられるが、日本国内では15年ごろから、「しっとり系」が市場に出回って以降、焼き芋の需要が増えている。千葉県は「しっとり系」の代表的な品種である「べにはるか」の産地であり、海外からの評価も高く、主な青果物輸出の中で高い実績を上げているという。



ドンキの焼き芋で販売に拍車

その後、マレーシア以外のアジア諸国に日本産サツマイモブームを広げていったのが、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)だ。

PPIHは、タイやシンガポール、香港などで展開する「ドンドンドンキ」の店頭に焼き芋機を設置。ほくほくの焼き上がりや、しっとりとした食感、スイーツにそん色のない甘さといった「日本の焼き芋」の特徴が受けた。熱帯に属する東南アジアでも売り場に行列ができるほどの人気となり、焼き芋の甘い香りに誘われ、店に入ってくる客も少なくなかったという。ドンドンドンキでは、焼き芋のみならず、生のサツマイモにも力を入れた。自治体との連携を強化し、産地とのダイレクトな連携や産直輸送に取り組んでいる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所も、日本産サツマイモの人気の高まりをさらに広げようと、販促キャンペーンを開始した。

サツマイモのほか、リンゴやイチゴなどの日本産青果物の魅力を発信するため、首都バンコクを中心とした小売店舗、オンライン店舗、インフルエンサー(専門知識・技能を有し、社会的影響力を持つ人物)などを通じて、日本産青果物の魅力を発信している。

日本産青果物の購入者やキャンペーンサイトの訪問者を対象に、ウェブアンケートを実施し、先着2万人の回答者に試供品として日本産サツマイモ1キログラムの提供を行っている。

ジェトロ・バンコク事務所の竹谷厚所長は、「タイにおける日本産青果物では、これまでリンゴが先行して市場への浸透が進んでいたが、サツマイモの存在感が目に見えて高まっている。生産者をはじめとした関係者の努力が大きい」と話す。

同じくジェトロ・バンコク事務所の農林水産・食品部の谷口裕基部長は、「日本産サツマイモの甘さや食感に加え、食物繊維を多く含む健康食としての人気が高まっている。家庭での調理法を紹介した動画サイトもあり、新型コロナによる家庭内消費の増加も輸出増加の追い風になっている」と分析している。



病気による減産で影響も

そうした東南アジアの日本のサツマイモブームに水を差しかねないのが、日本の産地における「サツマイモ基腐(もとぐされ)病」の拡大だ。3年前に日本国内で初めて確認されたサツマイモ基腐病は、カビの一種である糸状菌を原因とし、感染した株は茎の地際部が黒色や黒褐色に変色し、茎葉は黄色や紫色に変色して、症状が進むと壊死してしまう。

日本の農林水産省によると、20年の全国の収穫量は68万7,600トンで、前年に比べ8%減少した。主な産地である宮崎県や鹿児島県において、生育期間の日照不足などに加え、サツマイモ基腐病が拡大したことが原因という。

先の千葉県の担当者は、「基腐病の影響により、特に九州地方でサツマイモの減収が深刻となっており、その結果国内の引き合いが強くなり価格が上がっているようだ。国内の引き合い・価格の上昇が結果的に今後の輸出に影響することが考えられるが、現状で県産サツマイモの海外輸出に影響しているという話は聞いていない」と説明した。

(2021年11月11日 NNAタイ版より)

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