【マレーシア】
味や食感「本物肉薄」
次代担う植物由来肉
植物由来の人工肉を製造・販売するマレーシアのフューチャーが、国内市場の開拓を進めている。食肉革命として世界的に注目を集める人工肉の販売を、シンガポールで2018年に開始した同社は、マレーシア当局からハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得し、満を持して国内市場に参入した。アジア・太平洋地域の人工肉市場は2019~26年に年平均9.3%成長するとみられ、先行者利益を狙う。(NNAマレーシア 久保亮子)
植物由来肉「フューチャーミンチ」を使ったトマトパスタ(NNA撮影)
フューチャーの本社はスランゴール州クランにある。同社は鶏ひき肉を模した「フューチャーミンチ」をシンガポールを皮切りに香港、タイで販売しており、20年12月にマレーシア・イスラム開発局(JAKIM)からハラル認証を取得したのを機に自国での発売に踏み切った。
ジャック・ヤップ最高経営責任者(CEO、30)は「現在流通している畜産物による食肉は将来的に人工肉に取って代わる」と話す。人工肉は「見た目から味、風味、食感、調理法まで食肉を再現したものでなくてはならず、イノベーションで実現できる分野だ」と強調する。
本社で試食として提供された「ビーフハンバーガー」「鶏ひき肉のトマトパスタ」「鶏ひき肉としいたけの唐辛子炒め」の3品はいずれも本物の肉と見紛うものだった。
ハンバーガーは匂いから香ばしく、パンとチーズを除いて「パテ」だけを口にしてみたが、味も食感も、誤解を恐れずにいえば、米ファストフード最大手の商品のようだった。パスタと炒め物は、味付けが左右する部分が大きいものの、鶏ひき肉の脂身の歯ざわりや溶け具合が感じられ、肉質の繊維っぽさも弾力として楽しめる。
フューチャーはこれら全ての人工肉を、主原料から「植物由来肉(plant-based meat)」と呼んでいる。フューチャーミンチは現在、国内の卸売業者17社に供給しており、21年第2四半期(4~6月)までにパテ製品の「フューチャーバーガー」を発売する予定だ。
フューチャーミンチの成分は、本体が水と大豆たんぱく質濃縮物、メチルセルロース(増粘剤)、エクストラバージン・オリーブオイル、大豆粉、片栗粉などで、タンパク源にコメとヒヨコ豆、シイタケなどを使用。ビートルートとリコペン(トマト成分)、カラメルで色付けしている。食塩、ブドウ糖、カルシウム、ビタミン各種を加え、「植物由来肉には一般的に不足しているビタミンB12も含有している」(ジャック氏)。
ジャック氏は「脂身は主にコメで表現している」と話し、色合いにトマトは欠かせないという。試行錯誤を繰り返し、コンニャクイモも使ったことがあるそうだ。
研究・開発(R&D)には、米ビッグ・アイデア・ベンチャーズが参画し、オーストラリアの投資会社アーテシアンが出資者に名を連ねる。
21年6月までに発売予定の「フューチャーバーガー」(左)とフューチャーミンチの炒め物(NNA撮影)
コレステロールゼロが強み
植物由来肉の着想について、ジャック氏は「一に環境、二に健康。そしてビジネスの先見性」だと話す。
同氏によると、家畜が排出する温暖化ガスは2050年までに気温を2度上昇させる可能性があり、「世界的に畜産物の消費量が25%削減されると、温暖化ガスの排出量は12.5%抑止できる」という。持続可能な社会の構築を支える製品に育つとみている。
健康については、フューチャーミンチにはコレステロールが一切含まれない。また、脂質も1.8グラムと、同量(100グラム)の鶏ひき肉の12グラム(日本食品標準成分表)に対して大幅に少ない。
市場も拡大の一途にある。米アライドマーケットリサーチによると、世界の人工肉市場は19~26年に年平均成長率(CAGR)7.8%で伸び、81億米ドル(約8,400億円)規模になると予想されている。地域別の伸びでは、アジア太平洋市場がCAGR9.3%と、世界平均を上回る勢いだ。
コロナ禍を好機に
ただ、一から肉を創造する点では課題もある。塩分だ。
フューチャーミンチ(100グラム)にはナトリウムが390ミリグラム含まれ、食塩相当量では約1グラムとなる。これに対して、鶏ひき肉の食塩相当量は0.1グラムと10分の1以下。ただ、成人が1日に必要とされる量(食塩相当量)は1.5グラムが目安となっていることから、健康を害する量ではない。「肉に味を近づけるには自然由来であっても添加物は不可欠」(ジャック氏)で、今後、新商品を展開する上で開発を重ねる考えだ。
もう一点、価格の壁もある。フューチャーミンチの小売価格は250グラムで19.9リンギ(約510円)と、マレーシアのスーパーマーケットの鶏ひき肉が400グラムで6リンギ程度であるのに比べれば、高級食材と言わざるを得ない。
ただジャック氏は、コロナ禍がマレーシアで人工肉の市場開拓にプラスに働くとみている。「肉と(新型コロナ)ウイルスの関連性への懸念もあり、消費者の人工肉への関心と健康意識は急速に高まっている」(同氏)ため、食品業界に新しい食材として訴求する好機だとみている。中長期的には、医療分野で入院食の可能性も視野に入れている。
マレーシア市場で競合は国内外ブランド合わせて5社あるという。同国でも馴染みある小籠包や餃子用などそれぞれに合った「1品1肉」で開発を進め、勝ち抜く構えだ。
「家畜の食肉は将来的に人工肉に取って代わる」と話すジャックCEO=21年1月、スランゴール州(NNA撮影)
(2021年1月19日 NNAマレーシア版より)