NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2022, No.84

【韓国】
伝統漁法の新鮮イワシ
サンチュ巻きで頬張る

漁業の近代化が進む中、韓国海洋水産省が国内の伝統的な漁法の保護と継承に力を入れている。生物の多様性や漁村の景観と一体となった「漁業文化」を作り上げることで、過疎化と高齢化に悩む漁村の再生と観光業の活性化にもつなげる。NNAは今回、外信記者を対象にした同省のプレスツアーに参加。朝鮮時代から伝わる伝統的な漁法を観光資源として活用する慶尚南道南海郡での取り組みを報告する。(NNA韓国 坂部哲生)

カタクチイワシをサンチュに巻いて食べるツアー参加者(韓国海洋水産省提供)

カタクチイワシをサンチュに巻いて食べるツアー参加者(韓国海洋水産省提供)

今回訪問した慶尚南道南海郡は、高速鉄道「KTX」慶全線の終点である晋州駅(慶尚南道晋州市)からさらに車で約1時間の場所に位置する。ソウル駅からは4時間30分以上の距離で、青々とした海と大小さまざまな島々が魅力だ。

南海郡では今も「竹防簾(チュッパンニョム)」と呼ばれる漁業が行われている。水の流れが速く、水深が浅い自然条件を活用した漁法で、300本ほどの竹を潮の流れに逆らってV字型になるように並べ、V字のとがった部分には簾(すだれ)のような囲いを設置。迷い込んだ魚が逃げられないようにして捕獲する。

竹防簾で生け捕りできるのは、主にカタクチイワシ(アンチョビー)。傷がなくサイズも比較的大きいため、「竹防カタクチイワシ」というブランド名で高値が付くという。ほとんどは国内で消費されるが、一部は日本に輸出される。

捕獲したカタクチイワシのうち、サイズが小さいものは煮干しとして売られるが、3~4センチもある大きなものは刺し身にしたり、チゲ(鍋料理)に入れて食べたりする。ツアーでは、チゲの中にあるカタクチイワシを取り出してサンチュに巻いて食べたが、思った以上に弾力性があった。このような食べ方は鮮度が命なので、ソウル市では難しいのだそうだ。

南海郡には、全国にある45カ所の竹防簾のうち23カ所が保存されており、各竹防簾の年間売上高は多いところで3億ウォン(約2,940万円)ほどだ。

韓国政府が国家重要漁業遺産に指定した伝統的漁法「竹防簾」(韓国海洋水産省提供)

韓国政府が国家重要漁業遺産に指定した伝統的漁法「竹防簾」(韓国海洋水産省提供)

国家重要漁業遺産に指定

竹防簾は朝鮮王朝時代から続いている伝統的な漁法で、2015年には国内3カ所目となる韓国政府の「国家重要漁業遺産」に指定された。国家重要漁業遺産は現時点で9カ所に増えており、竹防簾以外にも、素潜りでアワビやウニなどの魚介類を獲る済州島の海女文化などがある。

海洋水産省のこのような取り組みは、「漁業の6次産業化」にもつながるとされる。6次産業とは、第1次産業の水産業が第2次産業に該当する食品加工や第3次産業に該当する観光業に乗り出す経営形態のことで、「1次」に「2次」と「3次」を足した造語だ。

「国家重要漁業遺産」として指定されれば、広報活動の強化や観光地としての環境整備のために、地元住民は3年間で7億ウォンの財政支援を受けられる。

南海郡には現在、国内外から年間で約500万人の観光客が訪れるが、これは「漁業遺産として指定されたことが大きい」(同省関係者)という。特に今年は、新型コロナウイルス感染症の拡大で海外渡航ができなくなったため、国内の観光客が例年以上に押し寄せているそうだ。

竹防簾という漁法は国内でも、コアなカタクチイワシ好き以外には知られていない。南海郡関係者は「竹防簾の魅力をアピールすれば、まだまだ観光需要を掘り起こせる」と期待感を募らせる。

海岸美化の特殊部隊も

新興アジア諸国で韓国海洋水産省と南海郡はまた、観光資源として海岸の魅力を高めるため、プラスチックなど海洋ごみの回収に力を入れている。昨年は7,900万ウォンを投じて122トンを除去。今年は予算を5倍近く増やし、対応人員も6人から28人に拡大した。回収した海洋ごみは5月までで154トンに達したという。

同省海洋保存課のオ・ソンチョル事務官は「南海郡の28人を含めて全国で1,000人が海洋ごみの回収に従事しており、環境の美化につながっている」と説明する。

「6次産業化」の効果実感

ツアーでは、韓国政府と地元自治体が共同出資して設立した「チョンド漁村体験休養村」も訪問(10人以上の団体のみ申請可能)した。1人2万ウォンで、干潟の穴の中に隠れているアナジャコの生け捕り体験ができる。

手ほどきしてくれるのは、地元のハルモニ(おばあさん)。まずは、アナジャコが隠れている穴にテンジャン(韓国みそ)を注ぐ。アナジャコはテンジャンのにおいに敏感に反応するのだそうだ。その次に穴に筆を入れると、アナジャコが姿を現す。

実際やってみると素人にはなかなか難しい。しかし、これがハルモニの手にかかると、面白いようにアナジャコが次々と浮上してくる。捕まえた獲物は近くの店で空揚げにして食べられる。

干潟の穴からアナジャコを捕まえるハルモニ(韓国海洋水産省提供)

干潟の穴からアナジャコを捕まえるハルモニ(韓国海洋水産省提供)

地元の人の説明によると同地域は過疎化が進行。かつて1,000人いた住民は120人まで減少したが、政府が体験休養村を立ち上げたことで毎年1万人が訪れるようになった。住民は「6次産業化による経済効果を実感している」と異口同音に話す。

ただ海洋水産省の関係者は「6次産業化が成功するかどうかは、最終的には地元の人たちのやる気にかかっている」と指摘する。漁業従事者は無口な人が多く、サービス業に不慣れだ。そこで、海洋水産省傘下の韓国漁村漁港公団が、地元住民におもてなし精神を教育しているという。

(2021年7月1日 NNA韓国版より)

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