【シンガポール】
世界初の「培養エビ肉」
甲殻類マーケット攻略へ
エビの幹細胞から培養して作られたエビ肉を使ったシュウマイ(シオック・ミーツ提供)
植物由来の原料などで製造した「代替肉」が世界的に広まる中、シンガポールで独自の「培養エビ肉」の開発に成功した企業がある。シオック・ミーツ(Shiok Meats)は大豆など植物由来の代替エビではなく、エビの細胞培養によるエビ肉を世界で初めて作り出した。同社の共同創業者であるサンディヤ・スリラム最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。【鈴木あかね】
――培養エビ肉とは。
エビの幹細胞を用い、細胞を培養して作り出す筋繊維のかたまりだ。本物のエビと全く同じ食感、味を持っている。1匹の健康なエビから幹細胞を取り出し、培養器で培養するだけ。培養器の中で徐々にエビの筋繊維が育ってくる。一定量のエビ肉を培養するのにかかる時間は4~6週間ほどだ。
――なぜ甲殻類なのか。
甲殻類は消費市場が大きく、栄養価もタンパク質含有率も高い水産物だ。エビだけでも400億米ドル(約4兆1,600億円)の市場があり、ロブスターやカニはさらに大きいマーケットを持っているのも魅力だ。植物由来の原料からエビに似せた代替肉を作ったり、培養で魚の肉を作ったりする企業は世界中に複数あるが、甲殻類の培養肉を作っているのは当社だけだ。主要製品は今のところ小形のエビだが、技術的にはロブスターやカニの培養肉製造も可能で、研究開発に取り組んでいる。
――培養エビのメリットは。
清潔で安全だ。エビをはじめとする甲殻類は下水が流れる場所に生息していたり、微小プラスチック片を体内に含んでいたりする場合もある。そのため、養殖でも天然でもエビは抗生物質で消毒され、場合によっては漂白される。培養エビ肉はその必要がない。また、同じ量のエビを養殖する場合に比べ、必要な土地や資源が少なくて済む。持続可能な食料源と言えるだろう。
――商用化のめどは。
2021~22年の商用化を目指し、試験的な生産を行う工場の設立準備を進めている。現段階では生産コストがまだ高いが、5~7年ほどで養殖エビと同程度まで下げられる見通しだ。まずはエビの消費量が多いアジア太平洋地域で展開し、向こう5~10年で域内のシーフード業界をディスラプション(破壊的な創造)したい。
(2020年2月27日 NNA POWER ASIAシンガポール版より)