【フィリピン】
船員特化の金融サービス
乗船期間を融資に反映
マルコペイはアプリによる船員向けサービスを拡充(同社提供)
日本郵船は、世界最大の船員輩出国のフィリピンで船員向けに特化したスマートフォンアプリによる各種金融サービスを開始する。独自の信用スコアを用いた個人向け融資や給与受け取りなどをできるようにする。船員は所得が高い一方、不安定な雇用形態のため金融機関から融資を受けることが難しい。新型コロナウイルス感染症の流行で電子決済が拡大する中、アプリを通じて需要を開拓する。【大堀真貴子】
船員向けの電子通貨プラットフォーム「マルコペイ(MarCoPay)」を活用し、アプリで各種サービスを利用できるようにする。マルコペイの藤岡敏晃・社長兼最高経営責任者(CEO)は「電子通貨以外のサービスから先に始動する見通し」と話す。
フィリピンは世界最大の船員輩出国で、邦船の船員約4万6,000人のうち73%がフィリピン人だ。フィリピンの船員の初任給は2,500米ドル(約26万円)と同国内の中間所得層より高い水準だが、期間雇用が足かせとなり金融機関の融資条件には合わないことが多い。
マルコペイでは、船員の収入や乗船回数などを基にした独自の信用スコアで審査し、融資を受けられるようにする。まずは、2020年11月をめどに個人向け融資の提供を始める。船員はアプリを通じて船員番号の登録や本人確認を済ませた後、融資が受けられる仕組み。電子通貨での送金が可能になるまでは銀行口座への振り込みで対応する。
21年にはさらに利用可能なサービスを増やす。3月に電子通貨による船員の給与支払い、他の電子通貨サービスへの送金、公共料金などの請求書支払いなどができるようにするほか、4月には生命保険、損害保険、医療保険を軸にした保険の提供も始める。このほか、ローン審査に時間がかかる自動車のリースなども視野に入れている。
今後は向こう5年で年間5万人、フィリピン人船員の6割によるアプリ利用を見込む。将来は世界全体の船員120万人の利用も見据えている。
マルコペイにとっては、新型コロナの感染拡大により世界各地で船員の入国や交代が制限されていることが普及の追い風になりそうだ。長期間にわたり乗船できず、収入が不安定な船員が増えており融資需要が期待できるためだ。感染対策としてフィリピンでも広がった電子決済が、アプリへの抵抗感を薄めていることもプラスに働きそうだ。
(2020年10月27日 NNA POWER ASIAフィリピン版より)