【海外駐在のマイルール】
おしゃべり命なインド人
適度な会話で友好ムード
言葉や風習が異なる海外赴任は困り事が尽きないもの。アジア各地の日本人駐在員に、奮闘しながら見つけた「マイルール」を語ってもらう。今回は、インド北部・グルガオンで単身赴任中の男性が登場。
イラスト:イケウチリリー
大手スポーツ用品メーカーに勤務するショウタさんが、自身初となる海外赴任の辞令を受けてインドにやってきたのは2022年末。直近まで海外事業部にいたものの、インドは担当エリア外で現地への渡航歴もなし。妻と小さな子どもを日本に残して単身赴任中のショウタさんに、試行錯誤しながら得たマイルールを聞いた。
マイルール①
日本との情報共有はセンスが大事
「青天のへきれきだった」という辞令が下り、インドで3代目の駐在員となったショウタさん。首都デリーの近郊で日系企業が集まる新興都市・グルガオンの現地法人には約80人のスタッフがいるが、日本人は1人という環境だ。
赴任期間は約3年の予定で、与えられたミッションは現地での生産拡大とサービス拡充。前任者からは「インド人はチャレンジ精神が旺盛。隙を見せると足をすくわれる」といった注意の他「現地の状況を日本側にどこまで伝えるのか、その判断にはセンスが求められる。感覚を磨き、適正バランスを見極めてほしい」といった話が伝えられたという。
また、日本側とのやりとりでは「諦めも大事」と付け足す。
「それを痛感したのが現地での住居探し。会社の人事部にローカルの不動産会社を紹介してもらったのですが、現地の水準ではハイレベルでも、日本人の感覚では快適とは思えない物件ばかりで。私があれこれ言うと不動産会社の担当者から『勘弁してくれ』という顔をされたことも(笑)。かなり難航したのですが、こういった苦労は本社にはダイレクトには伝えづらい部分。きっぱり諦めて現地で解決するようにしています」
マイルール② 家族呼び寄せは心の準備から
日本にいる家族とのコミュニケーション方法は、もっぱらビデオ通話。「平日に急いで退勤し、18時半に連絡したとしても日本は22時。3時間半という時差は意外とネックになり、連絡は週末限定に。ワンオペで子育てを頑張っている妻の話をできるだけ聞きたいと思いながらも、気付くと自分の話が多くなってしまいます」
会社のインド人スタッフに言わせると「家族との別居はクレイジー」で「ワイフと子どもはいつ来るのか、来月か?」と質問攻めに合っていたというショウタさん。着任2年目を迎える来年前半には家族を呼び寄せる予定で、スタッフを安心させられそうだ。
「日本で得られるインドの情報はかなり限定的。実際に暮らしながら現地で入手できる物とできない物、できる事とできない事が分かってきたところ。最初は動揺していた妻も、落ち着いて心の準備ができているようです」
一方、就学前の子どもはインド生活に興味津々。ウシが町じゅうを闊歩(かっぽ)したり、リスが走り回ったりしている動画を楽しく見ているという。
「近々、友達と別れねばならないと感づきつつも、家族一緒にいたいと言ってくれている。幼いながらに、しんどい状況を受け止めてくれているようです」
マイルール③ 悠久トークは適度に切り上げ
社内スタッフは皆優秀で、人当たりも良い。着任早々におなかを壊して以降も、日々の体調を気遣ってくれて「厳しい環境下での精神的な救いになっている」と語るショウタさん。取引先との関係も良好で、これまで大きなトラブルや衝突は起きておらず「総じてラッキー」。そんな中、てこずっているのが巻き舌の癖が強いインド英語だ。
「聞き慣れたアメリカやイギリスの英語とは発音がかなり違い、しかも早口。加えて多弁なほど優れているという価値観があり、話が長いんです」
例えば社内ミーティング。インド人部下に満足いくまで話させると1、2時間も延々とスピーチ。カルチャーギャップを痛感した。
「ただ、その長話はゆでる前のかさばっている野菜と同じで、ゆでた後に残る芯はすごく小さい(苦笑)。長過ぎるとこちらの集中力が切れるので、途中で止めて『こういうことだよね』とポイントを確認するようにしています」
気を付けているのが、話の腰を折り過ぎないこと。コミュニケーションを拒まれたと誤解を招く上に「日本人は怖い」という印象を与えかねないからだと話す。
「簡素に話すことを美徳とする私たちとは価値観が違うだけで、どちらが良い悪いではない。また、インドは貧富の差が激しく、貪欲でいなければ生きていけない背景を知れば、口達者なことも理解できる。文化へのリスペクトを忘れないことが海外勤務では大切だと思います」
駐在員に送るエール
インドといえば過酷な自然環境と、一筋縄ではいかない人々・・・・。失礼ながら赴任前はネガティブなイメージが強く、辞令が出た当初は私も妻もショックでした。
いざグルガオンに来てみると、日系の不動産業者がいくつか存在し、快適な暮らしができるコンドミニアムも探せば出てくる。おいしい日本食の店も知っているだけで3、4軒ある他、韓国や中国などから来た駐在員も多いので本格的な各国料理も楽しめます。日本人駐在員にとっては、インド国内で最も快適に過ごせる町ではないかと思います。
とはいえ正直、華やかな欧米の駐在生活とはかけ離れた生活です。健康を害して任期を全うできずに帰国する人もいます。
基本的ですが、大切なのはしっかり食べてしっかり休む事。私のようにずっとカレーでもいいと思うタイプは少数派だとは思いますが、ローカル料理を積極的に食べられる人の方が駐在生活を楽に送れると思います。
また、週末はゴルフという駐在員が多いですが、仕事関係以外の居場所を持つ事をお勧めしたいです。私の場合、長年やっている柔道の経験を生かして、ローカル向けの教室で子どもに教えたり、柔道仲間と練習後に飲んだりすることがよい息抜きになっています。
インド経済が世界から注目されていますが、実際にあらゆる事が猛スピードで進んでいて、10年後は全く違う姿になっているはず。発展していくさまを見られるのは貴重な経験ですし、駐在員として多くのチャンスを得られる時期だと思います。インドに赴任中、もしくは赴任を予定している方には一緒に楽しみましょうと伝えたいです。
当地で暮らし、実感しているのが好かれる人と嫌われる人の基準は世界共通ということ。相手を尊重する心さえ忘れなければ、インドでもやっていけると思います。(ショウタさん)