ビジネス書から語学本まで
アジア本NOW
ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今回は最近の中国人像をリアルに実感できる新書と駐在ハウツー本を紹介。
シン・中国人
──激変する社会と悩める若者たち
斎藤淳子(著)
2023年2月10日 筑摩書房 946円 電子版あり
結婚も恋愛も合理的に
現代中国をテーマにした新書は数多く出版されているが、本書が他と異なるのが20~30代の若者たちの恋愛や結婚事情を切り口にしている点。経済発展の最中に育ち、上の世代とは全く異なる価値観持つ彼・彼女らを「シン・中国人」と命名し、実態を描く。
著者は北京在住26年の日本人ライター。「中国のガチの素顔をリポート」とうたい、都会育ちの高学歴エリートから、地方出身の出稼ぎタクシー運転手まで、さまざまな若者たちの生の声を通じて、その横顔を浮き彫りにする。
過去20年で驚くほどの成長を遂げた中国。それは、世界共通の流れとしてある結果重視の合理主義が、中国特有の骨太で情熱的な気質と結び付いた姿だと著者は分析する。その一方「今すぐ成功しないと置いていかれる」という社会的圧力が生まれ、本来は情緒的な要素がある恋愛や結婚も合理的になり過ぎていると憂う。
恋人探しはスピード重視で、マッチングアプリ頼り。結婚相手の条件も収入、学歴、職業はもちろん、戸籍や住宅の有無を厳しく問い、家族間ビジネスのような様相になっていると指摘。特に戸籍は、中国では教育や住宅購入に深く関わる重要なもの。「北京の戸籍を持つ男性が条件。地方出身者は無理」とあっけらかんと話す30代女性の声にもシビアな見方が現れている。
常に「勝ち組」でいることを優先した結果、少子化、不動産高騰といった形でひずみが生じている今の中国。どの国でも生きるのは大変だとため息を吐きつつ、苦悩しながらもタフに生きる若者の素顔に親近感を覚えた。
中国駐在ハック
小島庄司(著)
2020年6月8日 日経BP 1,980円 電子版あり
働く目線から見る中国
『シン・中国人』の切り口が現代中国の若者であるのに対し、本書のそれはビジネスパーソンの目線から見つめた中国。
日本企業の中国事業を指導するコンサルタントが執筆。中国に赴任する日本人に向けたいわば駐在ハウツー本だが、登場する事例は著者の下に相談として寄せられた実話がベース。「駆け込み寺」「野戦病院」を自称するだけあり、読むだけで冷や汗をかくようなエピソードが満載だ。
例えば、赴任早々に社内宴会で待ち受ける「乾杯攻撃」は、値踏みされる場。相手がつぶれるまで飲み続けて力関係を示すか、下戸ならマジックといった特技を披露して時間稼ぎをすべし、などなど。先人たちの汗と涙と失敗が透けて見える事例が紹介され、身につまされるような思いを味わうとともに実態を学べる。
本書に貫かれているのは「違いの理由が分かれば、納得できる」の考え。中国人は商人、日本人は職人気質など、両国の違いが徹底的に説明されていて、理論的に得心できる安心感は大きい。
経済発展を続ける中国での日本企業の立ち位置は大きく変わり「日本の方が先進的」という従来の認識は当てはまらないとの忠告も肝に銘じたい。同じ状況にある他地域の駐在員にも参考になるヒントが詰まった1冊だ。