NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2023, No.102

【アジアエクスプレス】

たばこの吸い殻から繊維
ポイ捨てがぬいぐるみに

インドでポイ捨てされるたばこの吸い殻は、年間約1,000億本に上るとみられる。この莫大(ばくだい)な「ごみ」に目を付けた地場企業が、吸い殻を回収し、中のフィルターを綿状の繊維に再生する事業を立ち上げた。さらに、製糸技術の確立によって布地の生産にも乗り出し、創業者は「国規模のビジネスが可能」と意気込む。【NNAインド 久保亮子】

吸い殻のフィルターから再生された綿状の繊維。主にクッションやぬいぐるみの中身に使っている=インド・北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

吸い殻のフィルターから再生された綿状の繊維。主にクッションやぬいぐるみの中身に使っている=インド・北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

インドの新興企業、コード・エフォートは2018年設立。北部ウッタルプラデシュ州ノイダに本拠を置き、代表を務めるナマン・グプタ氏が大学卒業と同時に起業した。

グプタ氏はたばこを吸わないが、学生時代に喫煙する友人のポイ捨てに関心を持った。ウッタルプラデシュ州は2億3,000万の人口を抱え、州・連邦直轄地別で最も多い。隣国のバングラデシュの総人口(1億7,000万人)を上回り、パキスタンとはほぼ同じ。「州内の吸い殻だけで、いわば国規模のビジネスが可能になる」(グプタ氏)と踏んだ。

回収した吸い殻は、巻紙とフィルター、葉に分別。それぞれが便箋、繊維、肥料に化ける完全リサイクル事業だ。

吸い殻12州で調達
海外輸入も広がる

コード・エフォートのナマン・グプタ氏。売り上げ拡大の上で「拡大生産者責任(EPR)」と「企業の社会的責任(CSR)」が追い風になると話す=インド・北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

フィルターは大きく、▽吸い殻とその他のごみの分別▽巻紙とフィルター、葉の分別▽フィルターの裁断▽繊維の消毒▽繊維の乾燥▽開繊――の6つの工程を経て綿状繊維に再生される。

市販の消毒剤を使い、開繊機械はモーターとゴムベルト、木材などで自社開発した。半年かけて試作品の完成にこぎ着けた後、起業に踏み切り、これまでに1,000万ルピー(約1,700万円)を投じた。

吸い殻は、州ごとに契約する回収業者(アソシエイツ)から調達している。各州のアソシエイツは地区ごとに複数の回収業者(サブ・アソシエイツ)を管理し、さらにサブ・アソシエイツが町・村ごとに個人の回収業者を束ねる構図だ。

現在、12州にアソシエイツを持ち、サブ・アソシエイツは計250地区にまたがる。これとは別に北部の首都ニューデリーとグルガオン、ノイダ(ウッタルプラデシュ州)の3都市では、たばこを取り扱う零細商店(キラナ)にスタンド式の灰皿を配置。月2回、自社で回収している。

グプタ氏によると、インドで廃棄される吸い殻は年間2万6,000トン。うち、コード・エフォートは1.5%に相当する年400トンを回収している。吸い殻1キログラム当たり綿状繊維を0.5キロ生産できるため、綿状繊維の生産量は年間200トンになる計算だ。

昨年、ネパールとバングラデシュ、スリランカ、ベトナムでもアソシエイツ契約を結び、吸い殻の輸入も始めた。これらはまだ回収量全体の2%にとどまるが、中国からの大規模調達に向けて税務当局への輸入申請も終えており、今後は海外からの比重が高まると予想する。

回収した吸い殻に紛れ込むごみを手作業で取り除く=インド・北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

不良品も安定確保
梱包資材に参入へ

昨年度は4,000万ルピーの売上高を見込み、前年比で3.5倍に増える。売り上げの大半は電子商取引(EC)による物品販売が占め、売れ筋は綿状素材を中身に使ったぬいぐるみやクッション、巻紙からできた再生紙の便箋や紙袋だ。いずれも工場周辺に住む女性が内職で作成している。

今後、25/26年度(25年4月~26年3月)までの3年間に7億ルピーの売上高を目指す。黒字転換する見通しだと自信をのぞかせる。

事業が急拡大する背景について、グプタ氏は企業の「拡大生産者責任(EPR)」と「企業の社会的責任(CSR)」の高まりを挙げた。EPRとは、製品の設計、生産のみならず、使用後の回収、リサイクルまで環境負荷に対する一定の責任を企業(生産者)に求める考え方を指す。

具体的には、綿状繊維の原料として吸い殻のほかに、たばこメーカーがEPR、CSRの観点から、生産過程ではじかれる欠陥品をコード・エフォートに供給。同社にとっては原料の安定調達のルートとなっている。

手を組むのは、地場複合企業(コングロマリット)ITCやゴドフリー・フィリップス・インディア、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、米フィリップ・モリス・インターナショナルの大手4社で、グプタ氏が各社に提案し、賛同を得た。

フィルターが原料の綿状繊維から作った布地。南部バンガロールにあるファッション工科学院の協力で開発した(コード・エフォート提供)

企業のEPRとCSRの取り組みは原料調達のみならず、コード・エフォートの販売活動においても追い風になるようだ。

同社が販売するぬいぐるみやクッションは中身の綿状繊維だけでなく、カバーも自社で調達して完成品に仕上げている。「環境配慮型の商品拡充に前向きな文具や玩具メーカーに綿状繊維のみを供給できれば、中間財事業に集中できる」(グプタ氏)ためだ。綿状繊維の供給先として英玩具小売りのハムレイズと交渉する一方、中間財の多様化にも動き出している。

このほど南部バンガロールにあるファッション工科学院の協力で、綿状繊維からの紡績に成功し、生地の生産にこぎ着けた。

巻紙を利用した梱包(こんぽう)資材分野への参入も視野に入れ、事業拡大に伴って、生産できる紙の厚さを現状の1平方メートル当たり150グラムから、同320グラム以上に引き上げ、箱に適した板紙を手がける計画だ。

工場周辺の女性の就業を支援し、各自宅でぬいぐるみやクッション、紙袋の作成を依頼している=インド・北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

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