NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2023, No.102

ビジネス書から語学本まで

アジア本NOW

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今回は北関東(群馬県、栃木県、茨城県)に住まう外国人をテーマにした2冊のノンフィクション。


北関東の異界 エスニック国道354号線
絶品メシとリアル日本

室橋裕和(著)

食から知る異国の隣人

群馬県高崎市から始まり、茨城県鉾田市の太平洋岸を終点とする国道354号。北関東を東西に貫くこの幹線道路沿いに外国人コミュニティーが多数生まれていることに着目したのが、本誌にも寄稿するライターの室橋裕和氏。道を「エスニック国道」と呼び、社会の縮図をのぞいてみたいとの好奇心で横断を試みる。

登場するのはブラジル、ミャンマー、インドネシアなど各地から職を求めて日本にやって来た人々。外国人労働者が集えば食堂やスーパーができ、祈るための場所が作られ・・・・というコミュニティー形成の経緯を、彼らの郷土料理を共に頬張りながら丹念に聞き出す。

茨城県南東部にブラジル人が増えたのは、同地をホームにするプロサッカークラブ・鹿島アントラーズで同郷のジーコらが活躍したのがきっかけ、といったレアな地元情報も数多く紹介。ちょっとした郷土史としても楽しめる。

茨城県坂東市で野菜の栽培で成功したタイとラオスの夫婦や、中古車ビジネスで財をなした栃木県小山市のパキスタン人など、北関東に根を下ろしたくましく生きる人々の姿を伝える一方、日本の労働力不足といびつな共存関係にある技能実習制度など社会のひずみにも目を向ける。

どきっとしたのが、取材で出会った日本人が発したという「外国人は透明な存在」という言葉。すぐ隣にいるのに関わろうとしない。著者は「日本人と外国人とが存在を認め合い、ごく普通の隣人になる日は来るのだろうか」とつぶやきつつも希望を捨てない。

まずは本書を片手に北関東を訪れ、異国のご飯を楽しむことも多様性を認める一歩となりそうだ。

北関東の異界 エスニック国道354号線
絶品メシとリアル日本

2023年3月15日
室橋裕和(著)
新潮社
1,760円 電子版あり

北関東「移民」アンダーグラウンド
ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪

安田峰俊(著)

不良外国人に体当たり取材

3年前、群馬県で起きた「豚窃盗事件」を覚えている人は多いだろう。豚を違法に解体したとしてベトナムからやってきた技能実習生が逮捕されたことで(後に不起訴)、彼らの背景にある闇コミュニティーが話題になった。

そのコミュニティーの主役は、技能実習生としてベトナムから来日したものの、逃亡するなどして不法滞在・不法就労状態にある通称「ボドイ(ベトナム語で部隊、兵士の意)」。北関東一帯を騒がせた事件現場やグループの根城を巡り、実態に迫ったのが本書だ。

前出の『エスニック国道354号線』がいわゆる移民社会の表側だとすれば、本書は完全な裏側。ボドイが犯人の窃盗、殺人、ひき逃げ事件など生々しい話が続く。

著者は『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』など現代中国に迫る秀作を発表してきた実力派ルポライター。ボドイのすみかを洗濯物の干し方などから探り当て、ビールやコメを手土産に突撃を試みる「イケイケ」な取材手法が小気味よい。

圧巻は、豚窃盗事件の主犯格と目されたボドイの顔役「群馬の兄貴」への体当たりインタビュー。そり頭に入れ墨といういかつい風貌に気おされつつ、事件との関わりを問い詰めるくだりはクライム映画のようなスリリングさを味わえる。

著者はボドイの悪事を暴きつつ「民族性、国民性が主な要因ではない」と誤った認識への注意を忘れない。不良外国人はベトナム人に限らず存在し、それを生み出しているのは日本における外国人労働者の受け入れ制度の矛盾だと主張。闇社会から日本への警鐘を鳴らす貴重な1冊だ。

北関東「移民」アンダーグラウンド
ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪

2023年2月10日
安田峰俊(著)
文芸春秋
1,760円 電子版あり

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