NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2023, No.101

【海外駐在のマイルール】

信頼重視の台湾人
宴会も仕事のうち

言葉や風習が異なる海外赴任生活は困り事が尽きないもの。アジア各地の日本人駐在員に、奮闘しながら見つけた「マイルール」を語ってもらう。今回は、台湾で現地法人社長を務める男性が登場。

イラスト:イケウチリリー

専門機器メーカーで働くツトムさんが、台湾法人の社長に就任したのは5年半前。それまでは営業畑一筋で、海外で働くのは初。「特別な仕事を任されたと喜ぶ一方、経営は未経験で心配だった」と振り返る。「郷に入れば郷に従え」を信念に、台湾での駐在生活を乗り切ってきたツトムさんにマイルールを聞いた。

マイルール① 現地の商慣習を理解する

台湾で働き始めて、ツトムさんが想定外だと感じたのは、暗黙の了解のようなローカルなビジネスルールがあり、思っていた以上に日本と商慣習が異なっていたこと。

「例えば日本の場合、少しでも安いところがあれば取引先を変えるのが通常。一方で台湾は、業界にもよると思いますがコストより信頼を重視する会社が多いのが特徴。関係を崩す取引はご法度で、いつもA社、B社、C社の間で仕事を回している感じ。コストを無視しているわけではないのですが、呪文のごとく『コスト、コスト』と言っている日本との差に衝撃を受けました」

そのため新規参入は難しいが、裏を返せば、一度関係性を確立すれば長い付き合いが期待できるという。

平日夜はだいたい取引先と会食やカラオケに行くのも、これまで何十年と続いている良い関係性を維持するため。

「台湾では1人で勝手に飲むのもご法度で、必ず誰か相手を探して一緒にお酒を飲みます。そして、信じられないペースで高級ウイスキーを飲み干します(笑)。肝臓がオーバーワーク気味ですが、これも大切な仕事だと思っています」

商慣習ではないが、台湾でビジネスをするからには外省人と本省人との関係性や、客家人の存在についてきちんと理解しておくべきだとも強調する。

「大戦後に中国大陸から渡来した外省人、以前から住んでいる本省人、客家人の間には見えない壁があるような複雑な関係性。自分も最初はそういったことを知らず戸惑った。歴史の勉強も大事だと思います」

マイルール② 「郷に入れば郷に従え」を実践

円滑な駐在員生活を送るために、ツトムさんが大事にしているのが「郷に入れば郷に従え」のマインド。

「台湾では個人の自由が尊重されていて、周りと歩調を合わせることは日本人と比べて少ない印象。職場には数十人の台湾人スタッフがいますが、日本側のやり方や考え方に合わせることを望んだところで多勢に無勢。いい結果は生まない。台湾スタッフ側の考え方をまず考慮した上で、進めるようにしています」

言葉の面でも同様で、職場では中国語での会話を徹底しているという。

「赴任当初はあいさつ程度の中国語しかできず、わずかなことも通訳を介して伝えていたのですが、思うような意思疎通ができず・・・・。業務にも悪影響が出るようになり、下手な中国語でも一生懸命に話し掛けるようにしました」

社外でも、話しやすい雰囲気作りと中国語での対話を貫く。

「直接話せると得意先からの情報量が全然違いますし、実際に大きな仕事の獲得につながった。偉そうにしているといい話があっても声を掛けてもらいにくくなるのは世界共通ですね」

会話のきっかけ作りのために欠かせないのが、話のネタ集め。

「普段から意識して見ているのが台湾のニュース番組。『どこどこの店で美人がチャーハンを売っていた』とか、平和で笑えるB級ニュースが多くてネタ集めにいいんです(笑)」

マイルール③ 新築マンションは避ける

台北市内の賃貸マンションに家族と暮らすツトムさん。住まい探しの際は、耐震基準が厳しくなった2000年以降の建物で、家具一式にエレベーター、ごみ集積場が付いていて、警備員がいることを条件にして選んだという。

「新築マンションは内装工事がうるさかったり、水回りや電気関連のトラブルが解決していないことがあったりするので避けました。子どもが通う日本人学校に近い物件で、先ほどの条件を満たす物件はかなり少なく、ずっと同じマンションに住んでいます。台北の不動産は目が飛び出るほど高く、家賃はかなり高額です」

生活の満足度は100点中の80点。親日的で、食事はおいしく、安全で医療が発達している点に満足しているという。

「バイクやバスの危険運転が多いことや、ハンバーグ好きからするとハンバーグの店が少ないのが不満ですが(笑)。他の都市と比べたら、台北は日本人には住みやすい都市だと思います」

駐在員に送るエール

海外駐在員には、楽観的でストレス耐性がある人、そして何事にも好奇心を持って取り組める人が最も向いていると思います。健康も重要です。台湾は医療が発達していますが、他の国・地域はそうとは限りませんので。

逆に、神経質な人はアジア圏は少し厳しいかと。日本人が細か過ぎるともいえますが、適当な部分が多いので苦労します。人との対話が苦手という人も新しい環境になじむには少し不利になると思います。

海外の駐在生活は視野を広げ、たくさんの新しい発見ができます。そして「日本が最も優れた場所」という考えに疑問が生まれます。私の場合は台湾に来て、日本人はあまりにも周りに気を使いながら生活していると気付きました。台湾には会社でも社会生活でもそのような習慣はなく、自由が感じられて心地よいです。

日本だけで生活していたことを後悔するほど、駐在生活ではさまざまな学びを得られます。どうか楽しんでください。(ツトムさん)

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