NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2023, No.101

【ビジネスノート】

ジャックフルーツから「肉」
味わい食感まるでそっくり

肉の味や食感を再現した代替肉市場が広がりを見せる中、マレーシア特産のジャックフルーツが持続可能な原料として注目を集めている。ジャックフルーツは食物繊維が多い上、食感が肉に近い。現地ではカレーの具などとして食される一方、加工や流通の問題から大部分が廃棄されてきた。地場新興企業ナンカ(Nanka)が手がける商品は既に海外へ輸出され、日本でも東京都内のカフェなどが料理に使用。代替肉ブームを契機にジャックフルーツの新たな可能性を探るべく、日系の大手製薬企業との研究も始まっている。(NNAマレーシア 降旗愛子、Charlotte Chong)

完熟したジャックフルーツの果実(左)と、ジャックフルーツから作られた代替肉「フルーツミート」(左:Sustainable Food Asia提供、右:NNA撮影)

ジャックフルーツは「パラミツ」とも呼ばれ、東南アジアや南アジアにかけて広く栽培されている果物だ。大きなものは長さ70センチメートル、重さ40~50キログラムにもなる。完熟した果実は甘くメロンのような味で、独特の香りがあり、低糖質で食物繊維も豊富なヘルシー食材だ。

代替肉に使用されるのは熟していない果実で、くせがなく食感は繊維質。マレーシアではもともと、インド系の住民が野菜と同様にジャックフルーツをカレーの具にして食べる習慣があった。ナンカの創業者、シャフィーク・ジャファー氏もそうした住民向けに売られる市場の若いジャックフルーツの実を見て、代替肉への活用を思いついたと話す。

一般的に、植物性の代替肉は複数段階の加工や添加物が必要とされるが、ナンカの代替肉は、ジャックフルーツ以外に加える主原料がキノコや植物油などとシンプルだ。製造加工技術はマレーシア国際イスラム大学(IIUM)と共同で開発し、特許も取得。同社の技術を用いれば、加工段階で着色料を加えなくても肉に近い自然な赤みと歯応えのある代替肉「フルーツミート」が出来上がる。

マレーシアのジャックフルーツ。大きなものは長さ70センチメートルほどまで成長する(Sustainable Food Asia提供)

重要な市場の日本
都内カフェで好評

ナンカ(Nanka)創業者のシャフィーク氏。本社はスランゴール州で、2017年創業。ジャックフルーツを活用した代替肉や健康食品などの開発を手がける。社名は、ジャックフルーツのマレー語呼称「ナンカ」に由来する=マレーシア・スランゴール州(NNA撮影)

新型コロナウイルスの感染が世界中に広がった2020年以降、ナンカの売上高は2桁増で推移した。シャフィーク氏は「外出を禁じられ、退屈しきった人々が(フルーツミートという)目新しいものを見つけて飛びついてきた」と急成長の理由を分析する。

ただ、マレーシア国内での本格的な普及は遠そうだ。人口の6割超を占めるイスラム教徒(ムスリム)の宗教観と食肉は深い関係がある。同社がイスラム教徒が多い地元の公立学校で代替肉製品を紹介しようとした際に「(ヒンズー教徒や仏教徒に多い)ベジタリアン思想を啓発するつもりか」と非難されたこともあるという。

若い世代の間では菜食を取り入れた健康な食生活への関心が高まっているものの、長年培われた文化・宗教的背景を変えるのは容易でなく、ナンカは主に海外市場に目を向けている。現在の売り上げの6割は海外から。インドネシアやドイツ、エジプト、日本などに製品を輸出している。

中でも日本は重要な市場だ。ナンカは創業から間もない18年、スタートアップ支援のリバネス(東京都新宿区)が主催したシンガポールでのピッチイベントに参加し、特別賞を獲得。東京で事業の売り込みをする機会に恵まれ、出資を獲得することができた。「あのイベントがなかったら事業をたたんでいた」とシャフィーク氏は振り返る。

日本向けの商品展開でタッグを組む「Sustainable Food Asia(サステナブルフードアジア、東京都渋谷区)」によると、同社がジャックフルーツを使用した代替肉に着目した背景に、現地での大量廃棄問題がある。

ジャックフルーツは「世界一大きな果物」とも呼ばれるが、皮が重量の半分を占める上、現地の加工技術が未熟なことや成長が早く消費しきれないことから、流通過程で大半が廃棄されてしまう。それを代替肉という全く別の食品にアップサイクルして来店者に提供することで大量廃棄問題を解決し、循環型のエコシステム(生態系)構築を目指すという。

ナンカの代替肉は現在、東京都渋谷区のカフェレストラン他で、タイ料理のガパオやフランス風のリエット(パテに似た肉料理)、メキシコ料理のタコスの具などとして提供されている。「くせがないので、言われなければ(代替肉だと)気づかない」「他の代替肉と異なり、肉のような繊維質を感じる」など評判は上々だ。

ナンカのフルーツミートを使用したタイ料理のガパオ(Sustainable Food Asia提供)

活用はサプリ、茶の他
ペットフードなどにも

代替肉の原料となるジャックフルーツは、スランゴール州ラワンの農園から供給を受けている。マレーシア政府もジャックフルーツの輸出振興に積極的だ。同地区にある広さ1.6平方キロメートルの農地を輸出用ジャックフルーツの栽培拠点にする計画もあり、海外市場で既に評価の高いマレーシア産ドリアン「猫山王(ムサンキング)」に次ぐ特産品化を狙う。貿易産業省やマレーシア高度技術活用官民グループ(MIGHT)も、ジャックフルーツ由来の代替肉の輸出に協力していく方針だ。

一方、代替肉の国際市場にはスイスの食品大手ネスレなどを含む数多くの製品が台頭し、競争は激化している。ナンカのような新興企業が価格や商品開発で大手と競うことは難しく、消費者向けの代替肉製品販売ではなく、ケータリングやホテル、飲食業向けの原料提供や、ペットフードや健康補助食品、医療品分野への活用に向けた研究開発を進めている。ジャックフルーツの加工といえば、これまで現地では果実を乾燥させたスナック菓子くらいしか用途がなかったが、さまざまな製品が考え出されるようになった。

現在進めているのは、ジャックフルーツの分厚い皮の繊維質を原料にしたペットフードや、マレーシア国民大学(UKM)が手がけた藻類を用いた植物性の魚油とジャックフルーツを合わせた「魚のつみれ」などの開発だ。また、ジャックフルーツを粉状にして、小麦粉の代替とするアイデアもある。ジャックフルーツの粉は小麦に比べてGI(食後血糖値の上昇度を示す指標)値が低く、健康に良いという。

日本の大手製薬企業とは、ジャックフルーツの葉を茶原料とするための検討を進めている。ジャックフルーツの葉には高い抗酸化作用があり、茶やサプリなど健康食品への活用が考えられるためだ。シャフィーク氏は「ジャックフルーツのスペシャリストとして可能性を追求し、持続可能な食料として利用するための『ワンストップセンター』を目指したい」と意気込んでいる。


「フルーツミート」って実際どんな味?

フルーツミートとは実際どんな味なのか。Sustainable Food Asiaが6月、東京都港区に開いたフードテック(先端食品技術)をテーマにした展示で食べてきた。

「フルーツミートしぐれ煮おむすび」は、牛肉で作られることが多いしぐれ煮をジャックフルーツが原料のフルーツミートで再現し、おにぎりの具材としたもの。ジューシーな味わいといい、程よく柔らかな食感といい、言われなければ元がジャックフルーツとは全く分からない。

調理前のフルーツミートを見せてもらうと、見た目は缶詰のツナのよう。ほんのりとフルーティーな香りがするが口にすると甘みはなく、かすかな酸味を感じる程度で無味に近い。

フルーツミートで作ったしぐれ煮を載せたおにぎり=6月16日、東京・港区(NNA撮影)

「水分が多いため、調味料の味をなじませるためには調理前に水分を飛ばすといった作業が必要なものの、それ以外はひき肉と同じような感覚で調理可能」と同社代表取締役CEOの海野慧さん。

現段階では日本の輸入量が少ないこともあり価格競争力は高くないが、今後は大豆ミート程度にコスト調整していきたいと話す。

「いずれは日本市場向けのフルーツミート加工食品を開発し、販売したい」(海野さん)

(編集・古林由香)


ツナ缶、ケバブ、ナゲットも
代替肉ビジネスが各地で盛況

各地で活発な動きを見せる代替肉関連のトレンドを紹介する。

フィリピンの食品大手センチュリー・パシフィック・フード(CNPF)はこのほど植物由来の代替肉ブランド「unMEAT(アンミート)」の販売を米国で強化すると発表。新たにスーパーマーケットチェーン約2,000店舗で取り扱いを始めた。

センチュリーは21年に常温保存可能なランチョンミートと代替乳製品「unCHEESE(アンチーズ)」、22年には国内向けの代替ツナ缶を発売。今年2月には米小売り最大手ウォルマートの店舗での展開を発表するなど、同国市場へのブランド浸透を図っている。

タイの商務省国際貿易振興局(DITP)は5月にバンコク近郊で開催された国際食品見本市「タイフェックス・アヌガ・アジア(THAIFEX-ANUGA ASIA)2023」に「未来の食品体験(フューチャーフード・エクスペリエンス)プラス」という特別ブースを出店。植物性の代替タンパク質や代替肉などに関する展示を行い、取引拡大に取り組んだ。

DITPによると、代替タンパク食品をはじめとするタイの次世代食品の昨年の輸出額は1,290億バーツ(約5,246億円)に及ぶ。

インドの市場でも新興企業の参入が相次いでいる。タタ・グループ傘下のタタ・コンシューマー・プロダクツ(TCPL)は「シンプリー・ベター」ブランドを立ち上げ、植物由来の代替肉を使ったナゲットやパテ、ケバブなどの商品を展開している。

同国の市場は2030年までに約10億米ドル(約1,432億円)規模に拡大すると試算されている。菜食主義者だけでなく、食肉に代わるたんぱく源を求めていた健康意識の高い層からの支持が高まっていることが背景にある。

(NNAニュースより、カンパサール編集部まとめ)

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