NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2023, No.101

ビジネス書から語学本まで

アジア本NOW

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今号は、東南アジアの山岳に暮らす少数民族「ムラブリ」の世界に迫るノンフィクションと、その関連作品を紹介する。


ムラブリ
文字も暦も持たない狩猟採集民から
言語学者が教わったこと

伊藤雄馬(著)

森の人が伝える究極の自由

ムラブリとはタイやラオスの山岳地帯で生活する少数民族の名称。「森の人」という意味で、狩りや採集をしながら遊動生活(定住せず、広い地域を転々と移動しながら暮らすこと)をしてきた。現在、その数は500人程度で、彼らが用いるムラブリ語は消滅の危機にある「危機言語」に指定されている。

著者は世界で唯一、ムラブリ語を研究する若手の言語学者。フィールドワークによってムラブリの言語や暮らしを研究するが、ユニークなのが「研究成果は自分自身」と断言している点。大学生の時に旅番組でムラブリ語を知り、美しさにほれてから15年。ムラブリと過ごすうちに自身の考え方や生活がどう変わったのかというエピソードもつぶさに紹介する。

文字も暦も持たず「いま、ここ」という感性を大切にして生きるムラブリ。彼らに言わせれば「未来のことは分からない」。自由が好きで、強制されるのは嫌い。子どもも同じで、学校に行かない理由は「森が涼しいから」。究極にシンプルな感性で生きているムラブリの姿が生き生きとつづられ、うらやましさが湧いてくる。

現地の状況は、調査に同行してその様子を収めた批評家・映像作家の金子遊氏によるドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(下欄)でも紹介されている。「自分が本を出せるのも、映画が評価されたのも、現代日本が彼らのような自由な生き方を求めているからでは」(伊藤氏)と分析する。

最終的に「ムラブリ化した」という著者が、どのような生き方を選んだかは本書で確かめてもらうとして、現代社会でも人はいろんな生き方ができると可能性を教えてくれる1冊だ。

ムラブリ
文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと

2023年2月28日
伊藤雄馬(著)
集英社インターナショナル
1,980円 電子版あり

併せてチェックしたいDVD&本

森のムラブリ
インドシナ最後の狩猟民


2023年7月7日発売
金子遊(監督)、伊藤雄馬(出演)
アースゲート
4,180円

足かけ2年、ムラブリを追ったドキュメンタリーのDVD。伊藤氏は出演者兼コーディネーターとして参加。カメラはタイ国境を超えて、ラオス密林で昔ながらの生活を送るムラブリを探すが‥‥。

インディジナス
先住民に学ぶ人類学


2023年4月
金子遊(著)
平凡社
3,080円

『森のムラブリ』を手がけた金子遊氏による論集。ムラブリとの出会いや、ドキュメンタリーの制作エピソードを紹介。アート、民俗学を交えながら人類学を論じる意欲作。

BOOK LIST

※紹介文は版元から引用(原文ママ)

台湾漫遊鉄道のふたり


2023年4月20日
楊双子(著)、三浦裕子(訳)
中央公論新社
2,200円
電子版あり

炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶‥‥あなたとなら何十杯でも――。結婚から逃げる日本人作家・千鶴子は、台湾人通訳・千鶴と“心の傷”を連れ、1938年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。台湾グルメ×女たち×鉄道小説!

線を越える韓国人 線を引く日本人


2023年3月24日
ハン・ミン(著)、アンフィニジャパン・プロジェクト(訳)
飛鳥新社
1,760円 電子版あり

近いことを除けば、あらゆることが違っている韓国と日本。表面的な言葉や行動にいくら注目しても、結局「おかしな人々だ」という結論を越えることはできない。しかし、文化的視点から見ると、その違いや理由がよくわかる。気鋭の文化心理学者が放つ、新しい日韓比較文化論。

日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?


2023年2月13日
幡野武彦、松田琢磨(著)
日経BP
1,980円 電子版あり

日本海運業の存亡を賭けた日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業部門の大統合で誕生したシンガポールに本拠を置くオーシャン・ネットワーク・エキスプレス、略称ONE。2017年に設立されたONEの軌跡とコロナ禍による世界のコンテナ業界の大激動を追ったビジネスドキュメント。著者は海運専門紙記者と海運研究者。

まんぷくモンゴル!
公邸料理人、大草原で肉を食う


2023年3月15日
鈴木裕子(著)
産業編集センター
1,320円 電子版あり

「あなたモンゴルでも行く?」この一言で、給食のおばちゃんだったわたしは、在モンゴル日本国大使館の公邸料理人になった。(中略)食事は肉と乳ばかり。友人曰く、草を食べた家畜の肉を食べているのに、なんでわざわざ野菜を食べるのか、と。そこには大草原をかける遊牧民ならではの理由が‥‥。

スリランカでカフェはじめました
日本の常識は現地の非常識!?


2023年3月10日
東條さち子(著)
ぶんか社
1,200円 電子版あり

1年の半分をスリランカで過ごすアラフィフ主婦漫画家、東條さち子。現地でゲストハウスを経営している彼女が次に挑戦するのは、おいしいコーヒーが飲めるカフェ!(中略)約束を守らない、時間どおりにこない、レシピの配分は目分量‥‥。現地の人々に振り回されながら挑んだ2年間の結末は!?

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