NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2023, No.99

【新企画:海外駐在のマイルール】

日本と違う「信頼関係」
否定をせず現地モードに

言葉や風習が異なる海外赴任生活は困り事が尽きないもの。アジア各地の日本人駐在員に、奮闘しながら見つけた「マイルール」を語ってもらう新企画。暮らしぶりが分かる1日のスケジュールも公開。役立つヒントがきっと見つかるはず。

イラスト:イケウチリリー

関東地方に本社を置くメーカーのベトナム法人で、現地代表を務めるタカシさん(仮名)。赴任したのは5年以上前。海外で働くのは今回が初で、現地法人の設立にも携わったことから「とにかく必死の毎日だった」と振り返る。今は事業も軌道に乗り、心配だった食生活にも順応。「昼はいつもスタッフと一緒にベトナム料理」とにこやかに語るタカシさんに、駐在生活で見いだした自身のルールを教えてもらった。

マイルール① 言語は赴任前から準備すべし

現地語の勉強は、赴任前にやっておくべきことナンバーワンと断言するタカシさん。赴任後に学んだ方が効率良く習得できそうだが‥‥。

「僕もそう思っていたのですが、実際は現地入りすると業務に追われて語学に時間を割くのは到底無理。ベトナム語の知識ゼロの状態で赴任したので、最初の数年は本当に苦労しました」と明かす。

英語がある程度できるのは大前提とした上で、現地の言語ができるかどうかによってビジネスの幅が大きく変わると言葉を重ねる。

「商談やミーティングなどは通訳を介してできますが、職場でのちょっとしたやりとりは現地語ができた方が圧倒的にスムーズ。取引先との会食でも互いに英語ができればそれほど困りませんが、より親密な関係性を築くには現地語が不可欠。もし時間を赴任前に戻せるなら、ベトナム語の基礎学習を真っ先にやります」

マイルール② 人間観察で採用リスク減

ローカル従業員の採用に直接携わるタカシさん。右腕の管理職スタッフは一風変わった経緯で採用したという。「行きつけの日本風居酒屋で、仕事熱心なホール担当者がいたんです。彼にチップを渡しても『給料をもらっているので大丈夫』と絶対に受け取らない。この誠実さは貴重だと思い、彼が転職するタイミングでスカウトしました」

タカシさんが採用で重視しているのが「お金にきれいか」という点。「残念ながら、ローカルスタッフによるお金の不正問題が少なくない。お金への執着が強い人はトラブルメーカーになりやすいので、スペックが良くても採用しません」

時には採用前に食事を共にして、その際の立ち居振る舞いも参考にする。「注文方法1つ取っても人となりが見えてきます。現地スタッフの採用は手を抜かず、ある程度の時間と手間をかけるのが大事だと思います」

マイルール③ 「信頼関係」の違いを知る

「現地に入り、想定外だったのは信頼関係を維持することの難しさ。心を許した瞬間に裏切られる目に何度も遭いました」と声を落とすタカシさん。よくあるというのが突然の辞職。「大体が家庭の事情と伝えてきますが、多くは転職ですね。『会社を必ず大きくします!』と熱弁を振るっていた長年のスタッフが、翌日あっさり辞めたときは大きなショックを受けました」

「信頼」の意味が日本と違うことを思い知らされ、対策として取ったのが前出のような人間性重視の採用。さらには意味の捉え方自体も変えたと明かす。

「日本的な『頼りにできて疑うことがない関係性』という感覚を捨てて、ベトナムではこういうこともあると受け止めるようにしました。日本とは違うという認識が大事だと思います」と語る。

マイルール④ 孤独感は当然と達観する

現地法人の代表という責任あるポジションに就くタカシさんの悩みは、ふとした瞬間にさいなまれる孤独感。

「仕事で落ち込むことがあった時、同じような立場の日本人が身近にいれば愚痴として共有することができますが、それができずつらいです。従業員の突然の辞職についてベトナム人に相談しても『別に普通ですよ』といった反応で」と苦笑する。

ベトナムでは首都ハノイや南部ホーチミン市を中心に、県人会、大学の同窓会、日本人サークルなどがあり、日本人同士の交流は難しくない。しかし「狭い世界で、立場的にも仕事の愚痴は軽々しくは言えない」と心の内をぽろり。「海外駐在員たるもの孤独感はあって当然、と頭を切り替えて乗り切っています」

駐在員に送るエール

まず大切にすべきことは、相手とよくコミュニケーションを交わすことではないでしょうか。当たり前と思われるかもしれませんが、文化も言葉も異なるからこそ丁寧過ぎるくらいがちょうどいい。自分の場合は、賞与支給などのタイミングでスタッフ1人1人とじっくり面接をして、悩みや会社への不満を聞き、応えられるように努力しています。

2つ目は、日本の当たり前は、赴任先では当たり前ではないと理解し、相手に押し付けないこと。それができない駐在員はストレスがかさみ、もれなく苦労します。

3つ目は、赴任先の風習や近現代を中心とした歴史の勉強をお勧めしたいです。そこを分かっていると視野が広がり、例えば現地スタッフがなぜそういった言動をするのかすとんと理解できるようになります。例えばバレンタインデー。ベトナムでは男性から女性に渡す風習なので、女性従業員に毎年お菓子をプレゼントしているのですが、それだけで定着率が全然違ってきます。

自分もまだまだ試行錯誤の連続ですが、苦労が多い分、喜びも大きい。そこが海外駐在の醍醐味(だいごみ)だと分かると生活が違ってくると思います。(タカシさん)

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