【LegalOn Technologies 法務レクチャー】
「お得です」掲げる前に
気を付けたい景品表示法
商品やサービスの品質・内容・価格などの表示を偽ることを規制し、過大な景品類の提供を制限する「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)。消費者がより良い商品やサービスを選べるよう、その環境を守るための法律だ。LegalOn Technologiesの谷口香織弁護士が、海外展開する企業が注意すべきポイントについて具体例を交えて解説する。
春節の販促キャンペーンを打ち出すタイの流通大手セントラル・フード・リテール=バンコク(NNA撮影)
景品表示法といえば、新型コロナウイルス感染症が拡大したこの数年、ウイルス予防効果をうたった商品の広告が多数出ており、消費者庁が景品表示法違反(優良誤認表示)として措置命令を行っています。
もっと一般的な商品でも、例えば、大手飲食チェーンがキャンペーン販売の期間中に対象商品が欠品すると分かっていながら、期間中に来店すればその商品が手に入るかのように広告したことに対し、景表法違反(おとり広告)として措置命令がなされました。
景表法により規制される表示や景品類の具体的な内容は、その多くが告示や通達で定められています。そのため告示等を見落とすと、意図せずに違反してしまう可能性があります。
◆Lecture1
全員におまけ進呈
景品額は制限あり
まずは景品類の制限について説明します。景表法における「景品類」とは、①顧客誘引の手段として②自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する③経済上の利益――を言います(同法2条3項)。(何が「景品類」に当たるかは「景品類等の指定の告示の運用基準について」(告示)で詳しく定められています)
それが「景品類」である場合は、さらに以下の3種類のどれに当たるかによって額が制限されます。
・一般懸賞(くじ等)
景品類の最高額は10万円、総額は売上予想額の2%まで。
・共同懸賞(商店街等で複数の事業者が共同して実施するくじ等)
景品類の総額は売上予想額の3%まで。
・総付景品(来店者にもれなく提供するなど、「懸賞」によらない景品類)
景品類の最高額は、景品類の提供に係る取引の価額の20%。
その他にも雑誌業や新聞業、不動産業、医療用医薬品業など、業種によっては特別なルールが設けられています。
ここからは、事例に沿って景品類の提供において注意することを解説します。
日本とタイで香料等の製造・販売を行っているA社は、日本人にタイの香料についてもっと知ってもらい、かつ顧客を誘引するため、キャンペーン期間中にA社製品を購入した人には、もれなくタイの香料αをおまけとして配布することにしました。
本件におけるαの配布は、①顧客誘引の手段として②A社製品の取引に付随して提供する③経済上の利益に当たる――ため、αは景品表示法における「景品類」となります。なお、仮にαが日本では販売されていなくても、日本の顧客から見て通常αは対価を支払って取得するものなので、③経済上の利益に該当します。
それでは景表法の上では、どのような点に気を付ければよいでしょうか。本件は、A社製品の購入者にもれなくαを配布するので「総付景品」に当たります。
購入額の多少を問わずαを提供するため「取引の価格」は原則的に100円とされます。ただし、A社の製品で最も安いものが500円だった場合、500円を「取引の価格」とします。こうした金額に関する考え方は、通達の「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」で定められています。
総付景品の場合、景品類の最高額は取引価額の20%なので「500円×20%=100円」となります。もっとも、この金額が200円未満の場合は200円が最高額になります。これらの金額の考え方は、告示の「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」で定められています。
そのため本件キャンペーンの場合、αは200円以下の物にする必要があります。もし「それではキャンペーンのインパクトが薄い‥‥」と思われる場合は、A社製品を一定額以上購入した人を対象にするか、抽選として少し豪華な景品にすることなどが考えられます。
◆Lecture2
銘柄、効果、原産地
誤認招く不当な表示
次に、不当な表示の禁止についてご説明します。「不当な表示」とは、具体的には以下の3つになります。
・優良誤認表示(景表法5条1号)
・有利誤認表示(同条2号)
・その他一般消費者に誤認されるおそれがある表示(同条3号)
1つ目の「優良誤認表示」は、商品やサービスの内容について不当な表示をすることです。例えば、国産有名ブランド牛だと表示しながら、実際はブランド牛ではない場合などです。冒頭で触れたウイルス予防効果をうたう商品もこれに当たります。
2つ目の「有利誤認表示」とは、商品やサービスの取引条件について不当な表示をすることです。例えば、キャンペーン期間中だけ格安で購入できると広告しながら、実際には、その期間後も同じ値段で販売していた場合などがこれに当たります。
3つ目の「その他一般消費者に誤認されるおそれがある表示」は、告示の形で示されます。やはり冒頭で挙げた大手飲食チェーンのおとり広告もその1つです。その他にも、無果汁の清涼飲料水等の表示、商品の原産国に関する表示、有料老人ホームに関する表示などが規制されています。
◆Lecture3
「ダイエットに効果」
受け売りでトラブル
次は景表法関係でトラブルになった場合の流れを、事例に沿って解説します。
日本とASEANで食品の小売り事業を行っているB社は、ASEANのある国で販売された健康食品がダイエットに効果があるとして話題になっていることから、その食品を日本に輸入して販売することにしました。しかし、その食品の製造業者であるC社の説明をそのまま受け売りして、ダイエットに効果があるとうたう広告をしたところ、消費者庁から景表法が禁止する「不当な表示」(優良誤認表示)ではないかという指摘を受けました。
消費者庁は、景表法に違反する行為が行われている疑いがある場合、調査を開始し、実際に違反があれば改善指導や措置命令、課徴金の納付命令に進みます。
出所:消費者庁「よくわかる景品表示法と公正競争規約(令和4年1月改訂)」7ページ
本件の場合「優良誤認表示」の疑いが持たれているため、景表法7条2項により消費者庁はB社に対し、ダイエットに効果があるという広告の合理的な根拠を示す資料の提出を求めると考えられます。
提出資料が「合理的な根拠を示す資料」と言えるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります(詳しくは「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」を参照ください)。
・提出資料が客観的に実証された内容のものであること
・表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
しかし本件の場合、B社はC社の説明を受け売りしただけで根拠となる資料を持っておらず、C社に問い合わせたものの要件を満たす資料はありませんでした。資料を提出できなければ、問題の広告は「優良誤認表示」とみなされ(景表法7条2項)、課徴金納付命令との関係では「優良誤認表示」と推定されます(同法8条3項)。
それでは、B社は消費者庁に対して「当該商品を製造したのはC社であり、B社はC社の説明をうのみにしただけなので、景品表示法の適用は受けない」と主張できるでしょうか。
残念ながら、C社の説明をうのみにしたとはいえ広告の内容を決定したのはB社なので、本件の場合はB社に景品表示法が適用されます(詳しくは、消費者庁のウェブサイト「表示に関するQ&A」https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/representation/#q3を参照ください)。
その結果、B社は措置命令だけでなく課徴金の納付も命じられてしまいました。また、B社に対する世間の評判も低下してしまいました。
◆Lecture4
賠償を請求できる?
契約書の条項次第
それではB社は、受けた損失をC社に請求できるのでしょうか。この場合、B社とC社との間でどのような契約が締結されたかが重要になります。
もし契約書においてB社が、日本でダイエット食品として販売できる品質の商品のみを輸入するとして、求められる品質に合致することや輸入目的に合致することをC社に保証させていたとしたら、C社に損害賠償を請求できる可能性があります。
また、損害賠償に関する条項も重要です。中には、商品の代金総額を損害賠償金の上限であると定めていたり、責任を負うのは直接損害だけで派生的な損害や間接損害は賠償しない、と定めている場合もあります。契約書において損害賠償の範囲が限定されていると、自分が受けた損害を十分相手に賠償させることができなくなります。
どのような取引で、どのような契約書を締結する必要があるか、その中でもどのような条項が必要かは、取引によってさまざまです。
当社が提供するAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」には、700以上の契約書ひな型が登載されています。また、作成した契約書に抜け漏れがないかをAI(人工知能)を使って確認したり、条文の解説を読んでその条文の要否を判断したりする一助にもできます。
景表法は具体的な内容が告示や通達に規定されており、キャッチアップしていくのが難しい分野でもあります。当社では、法律や契約について分かりやすく解説する情報メディア『契約ウォッチ』も運営しておりますので、こちらも参考にしていただければ幸いです。