NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2023, No.96

ビジネス書から語学本まで

アジア本NOW

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今号は、「フィリピンのトランプ」とも呼ばれたロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の実像を明かす人物ルポ。


ドゥテルテ
強権大統領はいかに国を変えたか

石山永一郎(著)

人気の理由は「ギャップもえ」

内政干渉されたとして米オバマ大統領(当時)を「あばずれの子が」と罵倒、麻薬撲滅政策では「抵抗する者はその場で殺せ」と公言。数々の過激な発言で知られたフィリピンのドゥテルテ前大統領。日本ではこわもて剛腕政治家のイメージが付きまとうが、任期後半でも75%という高い支持率を維持。国民に愛された理由を、政策を解説しながら探る。

著者は共同通信社でマニラ支局長も務めたジャーナリスト。フィリピンで発行の邦字紙「まにら新聞」編集長の経験も持ち、人脈と土地勘を生かしてドゥテルテ氏の軌跡を現地で追う。

札付きの不良だった学生時代から一転して検察官となり、1988年に南部ミンダナオ島のダバオ市長に初当選。政治家として最も重んじたのは「法と秩序」。ある時は自ら銃を握り、麻薬捜査の現場に乗り込み部隊を指揮。またある時は、タクシーのメーター制を徹底させるために運転手になりすまして、優良運転手の模範を披露。大統領時代も型破りなエピソードだらけで、興味を抱かずにはいられない。

一方、著者はドゥテルテ氏に実際会った時の印象を「物腰柔らか」と表し、ダバオ市にある質素な自宅や読書好きといった横顔も紹介。フィリピン政治専門家の言葉を借りて「ギャップもえ」が人気の背景にあると述べる。

言論弾圧の疑惑や、6,000人以上の死者を出した麻薬捜査などに対する国際社会の非難も取り上げるが、日本や欧米と大きく異なる「フィリピンの現実」が背景にあると著者はフォロー。「異彩の政治家」と呼び、肯定的な論調でつづる。

本書後半では、国民皆保険法の導入から対中戦略まで任期中に取り組んだ政策を紹介。欧米による過去の植民地支配を激しく批判するドゥテルテ的ナショナリズムのほか、氏の長女とペアを組むマルコス現大統領への影響力などにも言及。ドゥテルテ氏を軸にフィリピン社会の歩みも学べる1冊だ。

ドゥテルテ
強権大統領はいかに国を変えたか

2022年11月10日
石山永一郎(著)
KADOKAWA/角川新書
1,056円 電子版あり

BOOK LIST

※紹介文は版元から引用(原文ママ)

信仰の現代中国
心のよりどころを求める人びとの暮らし


2022年9月5日
イアン・ジョンソン(著)、秋元由紀(訳)
白水社
3,630円 電子版あり

共産党支配下における政治と宗教の関係は常にある種の緊張状態にある。本書は、この緊張状態の根源にあるものを掘り起こし、信仰と伝統行事のあり方を通して中国社会のもう一つの姿を描いたノンフィクションである。

オールド台湾食卓記
祖母、母、私の行きつけの店


2022年10月26日
洪愛珠(著)、新井一二三(訳)
筑摩書房
2,420円

祖母が愛した迪化街の名店、母直伝の滷肉のレシピ、地元で愛される切仔麺、パイナップルケーキに秘められた歴史・・・・愛すべき台湾の味と家族の記憶。重版続々、台北文学賞受賞。台湾で話題のエッセイ、ついに刊行!

移民大国化する韓国
労働・家族・ジェンダーの視点から


2022年11月15日
春木育美、吉田美智子(著)
明石書店
2,200円

日本以上のペースで少子高齢化が進む韓国は、「雇用許可制」を導入し、非熟練外国人労働者を正式に受け入れる政策転換に踏み切った。その労働政策、語学教育、結婚移民などの話題を現地取材で掘り下げ、問題が山積する日本の外国人政策に示唆を与える必読書。

インド文化読本


2022年11月
小磯千尋、小松久恵(編)
丸善出版
2,640円 電子版あり

北はヒマラヤ山脈からデカン高原を経てインド洋にいたる国「インド」は人口13億人を抱える多様性にあふれた国です。(中略)現在にいたるまで、さまざまな文化をもつ人々がどのように共生しているのかという、インドの「今」に迫ります。

Global EC Impact
全世界で売れ。


2022年11月
重本憲吾(著)
ダイヤモンド社
1,760円 電子版あり

アメリカ企業にとって代わってECインフラを制圧しようとする中国企業。日本企業は大きく出遅れている。このまま後塵を拝したままか。逆転のチャンスはあるのか。アフリカ、南米、ASEANでの覇権争いは、まだ始まったばかりだ。

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