NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2022, No.95

【アジアエクスプレス】

「世界一高い」納得の質を
台湾カカオのチョコレート

チョコレートなどの原料になるカカオが、台湾で採れることはあまり知られていない。ヤシ科の植物・ビンロウの転作作物として台湾政府が推奨し、台湾で栽培から製品化まで行ったチョコレートは世界的な評価も受けている。一方で、壁となるのが他の生産国に比べてかさむコスト。政府や関係者はさまざまな付加価値を高めて国際市場での拡大を狙う。(NNA台湾 菅原真央)

木にぶら下がるようにしてなるカカオの実=7月、台湾・屏東(NNA撮影)

木にぶら下がるようにしてなるカカオの実=7月、台湾・屏東(NNA撮影)

赤、緑、黄色、オレンジ――。手の届く高さにラグビーボールのような実がぶら下がる。手のひらより少し大きなサイズで、持つと固くずっしりと重い。汗がにじむ暑さの中、カカオの実は木の葉の陰で守られていた。

台湾最南部に位置する屏東(へいとう)県。自然豊かな県には北西部を中心にカカオ農園が点在する。台湾産原料で作ったチョコレートは個性的な風味が特徴といわれ、口に含むと、凝縮されたコクとフルーツのような酸味、洋酒のような香りなど複雑な味わいが一気に広がる。

台湾でのカカオ生産は、日本統治時代の1927年に森永製菓の創業者である森永太一郎氏が栽培を試みたのが始まりだ。しかし当時の気候は栽培に適しておらず、根付くまでには至らなかった。

その後、生産が再開したのは2002年ごろ。屏東県の農家がインドネシアの品種をビンロウの木陰で栽培することに成功した。カカオは高温多湿の環境でよく育つが、直射日光を嫌う。ビンロウの木の下で育てることで、太陽の光を遮ることができるという。

実の中はパルプと呼ばれる果肉がぎっしり。白い果肉に包まれているのがカカオの種(豆)=7月、台湾・屏東(NNA撮影)

実の中はパルプと呼ばれる果肉がぎっしり。白い果肉に包まれているのがカカオの種子で乾燥・発酵を経て「カカオ豆」になる=7月、台湾・屏東(NNA撮影)

屏東県はビンロウの生産量が多い地域の1つ。ビンロウの種子は、石灰などと絡めてかむことで清涼感が得られるとされ、嗜好(しこう)品の一種として使用されてきた。しかし、口腔(こうくう)がんのリスクが高まるなど健康被害が指摘されており、台湾政府は近年、カカオやコーヒーなど他の作物への転作を促している。

日本の農林水産省に相当する行政院農業委員会(農委会)の水土保持局台南分局は、16年から屏東県でカカオ産業発展の支援計画を始動。傅桂霖(ふけいりん)分局長によると、栽培や販売、チョコレートの製造、畑の管理などの技術指導を行っている。カカオの耕作面積は現在、約300ヘクタールまで拡大した。

傅局長は、台湾の強みは、カカオ栽培からチョコレート製造まで一貫して行う「ツリー・トゥー・バー(Tree to Bar)」が可能なところだと話す。一方、生産量の多いコートジボワールやガーナ、インドネシアは主に原料生産のみで、チョコレート製造は輸出先の国で行う場合がほとんどだ。

産地で製造が強み
高コストが障壁に

台湾のチョコブランド「フーワンチョコレート」の製品。鉄観音茶を使用(NNA撮影)

台湾のチョコブランド「フーワンチョコレート」の製品。鉄観音茶を使用(NNA撮影)

その「ツリー・トゥー・バー」のブランドの1つが、屏東県に本店を構える福湾巧克力(フーワンチョコレート)だ。原材料はココアパウダーを除き、全て台湾産カカオを使用している。台湾産の食材を使った製品もあり、日本の消費者からは鉄観音茶や桜エビを使ったものが人気だ。

15年に設立された同社は、世界的な品評会「インターナショナル・チョコレート・アワード(ICA)」で多くの賞を獲得しており、台湾製品を国際舞台に押し上げたブランドの1つとして知られる。

創業者の許華仁氏は「当社のチョコレートが世界で認められるようになったのは、産地でチョコレートを作れているから。全ての製造工程を正確に細かく把握できるため、短期間で品質を上げることができた」と説明する。

台北市の超高層ビル「台北101」にも出店しており、観光客だけでなく近隣のオフィスビルで働く人や住人が買い求めるという。

農委会によると、台湾のチョコレート市場規模は約88億元(約400億円)。ただ多くが輸入品で、台湾製のシェアは3%以下となっている。農委会は10%以上まで拡大する目標を掲げるが、壁はコストの高さだ。生産量の多いアフリカやインドネシアに比べて人件費や土地、加工に費用がかさむためで、台湾産カカオは「世界で一番高いカカオ」とされる。

実際、フーワンチョコレートの価格は板チョコが280~650台湾元と、一般的なチョコレートの数倍。許氏は「コストが世界一高いなら、世界で最高の品質のカカオを目指さなければならない。そうでなければ生き残ることはできない」と語る。

コストを下げることは台湾カカオ産業のサステナビリティー(持続可能性)の観点からも難しい。許氏は、アフリカやインドネシアのカカオの価格は生産者の生活を支えられていないと指摘。「持続可能なチョコレートのビジネスモデルを確立するためには、農家からの仕入れ価格が合理的でなければならない」と訴える。

前出の農委会水土保持局の傅局長も「安く売り出すことはできない」と強調。国際的なコンテストで台湾産チョコレートの知名度を上げ、高級路線として売り出していく方針だ。

台湾の味を日本で
取り組みも高評価

写真左:美麗の人気メニュー、台湾産カカオを使用したガトーショコラ(550円)。写真右:ローストしたカカオの皮を使ったクラフトコーラ(650円)。客からは「濃厚な味わいで台湾の大地を感じる」という声をもらうと同店の小山氏=11月14日、東京都世田谷区(NNA撮影)

台湾産カカオを使用したガトーショコラ(550円、左)。ローストしたカカオの皮を使ったクラフトコーラ(650円、右)。「濃厚な味わいで台湾の大地を感じる」と評判だと美麗の小山氏=11月14日、東京・世田谷区(NNA撮影)

そんな中、台湾産カカオの流通が日本で少しずつ広がっている。20年1月にオープンした東京都世田谷区の台湾カフェMEILI(美麗)では、屏東県の契約農園から空輸したカカオ豆でチョコレートやスイーツを製造。カフェスペースで提供するほか、店頭やオンラインで販売している。

小山立代表は、台湾産コーヒー豆をきっかけに同地の農作物のレベルの高さを知り、日本でも広めたいと起業。カカオ豆の仕入れからチョコレート製造まで一貫して行う「ビーン・トゥ・バー(Bean to Bar)」メーカーに台湾産カカオの卸売りも行っている。営業の際はコストの高さを理由に断られたことも多く「使いたいという企業は本当に余裕のあるところだけだ」と指摘する。

一方で、仕入れたメーカーは品質を高く評価。現在は東京都世田谷区の「マジドゥショコラ」のほか、千葉県、青森県のチョコレート専門店などが台湾産カカオを仕入れている。

「別の産地では虫が混入したり、汚い豆があったりもするが、台湾のカカオはピッキング(選別)が必要ないほどきれいだとの感想をもらう」と小山氏。台湾の農家が良い豆を届ける努力をしているからだという。

原料や製品を知る関係者は、その品質の良さを広めようと動く。小山氏もその1人だ。日本のマルシェなどで台湾産チョコレートを使った商品を積極的に展開するほか、台湾各地と姉妹都市の関係にある日本の自治体との提携を模索中と話す。「行政と協力し、その土地の特産品を使用したチョコレートを台湾産カカオで作る計画を考えている」と今後の展望を明かした。

台湾カカオ産業の取り組みは日本でも評価され、この11月に発表された「2022年度グッドデザイン賞」ではフーワンチョコレートが金賞(経済産業大臣賞)を受賞した。

審査員は「台湾の作品は総じてレベルが高かった」とした上で「その中でも審査委員の注目を集めたのがこの作品(フーワンチョコレート)」とコメント。「ビンロウの健康被害とビンロウ農家の低所得を解決するために、23軒の農家にカカオを育ててもらっている。カカオ発酵の技術開発にも積極的で、台湾のカカオが高品質であることを世界へ発信している点も素晴らしい」と評価。今後、参加する農家が増え産業として広がることへの期待も寄せた。

受賞により消費市場での展開にも弾みがつく。同チョコレートの日本輸入総発売元であるトモエサヴール(大阪市)は、フーワン製品の扱いを拡大する。台湾茶の風味を取り入れたナッツ系のアイテムなど数種類の新商品を投入。この12月1日からオンラインショップで販売を始め、価格はおよそ2,000~3,000円。

「その土地ならではの魅力をチョコレートを通じて伝えながら、消費者が改めて産業について知るきっかけを作っていきたい」と、同社は話している。

フーワンチョコレートの日本での販売価格は板チョコ1枚2,000円前後(トモエサヴール提供)

フーワンチョコレートの日本での販売価格は板チョコ1枚2,000円前後(トモエサヴール提供)

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