【インフルエンサーinアジア】
縁あってスリランカと20年
この国の未来を応援したい
内海由周さん
SNSで多数のフォロワーを持ち、強い影響力を持つインフルエンサーが注目を集める昨今。そんな彼・彼女たちの中から、日本とアジアをつなぐインフルエンサーをご紹介。(編集部 古林由香)
1967年、東京都生まれ。外食企業を経て2004年「アクティブインターナショナル」設立。日本を拠点に中古自動車のスリランカ輸出業、同国のスパイス輸入販売業を展開。14年にスリランカの最大都市コロンボに現地法人を設立し、観光業を開始。15年から5年間同国に滞在し、ガイドブック『地球の歩き方』の特派員も経験。現在は日本に戻り「スリランカ案内人」として、講演活動やイベント主催など多岐にわたり活動(本人提供)
3,970人(登録者数。以下同)
Twitter :うっちゃん『スリランカ案内人』@コロンボ
(@lankaspice) 1,622 人
Instagram :うっちゃん スリランカ案内人(uchalanka) 1,494人
※22年9月27日現在
経済危機に陥り、深刻な状況が伝えられるスリランカ。そんな中、同国の情報をエールのごとくSNSでひたむきに伝えているのが内海由周(うつみよしちか)さん。愛称はうっちゃん。ひょんなことからスリランカと縁が結ばれ約20年。会社経営をしながら同国と日本をつなぐ活動を続け、「スリランカ案内人」として知られた存在に。2年半前に開設したユーチューブでもスリランカ愛あふれる動画を投稿し、ファンを増やしている。
――スリランカと関わった経緯は?
内海 会社員だったころ知人を通じて日本で働くスリランカ人男性と知り合い、友人になったのがきっかけです。彼が母国で結婚式を挙げることになり、招待を受けて2003年に初めて訪れました。自分はもともと外国に興味がないタイプで、海外経験も会社のインセンティブ(報奨)旅行でインドネシアのバリ島に行った程度。スリランカにも何の期待もない状態で行ったのですが、気候の良さと人々の温かさが心に残って。食も自分の口に合い、いい国だなと感じました。
その印象が合っているのか確かめたくなり半年後に再度渡ったのですが、後に長きにわたる友人となる別のスリランカ人から「一緒にビジネスをやろう」と持ちかけられたんです。ありがちな話ですが(笑)。自分はそれまで会社人間で、家と職場を往復するだけのような生活を送っていたのですが、一方では会社員として人生を終えたくないという気持ちもあって。その時すでに30代後半で「脱サラするなら今だ」と感じて1年後に退職し、すぐに起業しました。
――事業内容は?
内海 まず始めたのが、日本の中古自動車をスリランカに売る輸出業。前職とは全く異なる業界だったので一から調べてやっていました。それなりに順調だったのですが、輸入関税が大幅に引き上げられたのをきっかけに手を引き、次にスリランカのスパイスを日本で輸入販売する事業を始めました。
観光地としてマイナーだったスリランカの魅力を日本人旅行者に広めたいと思い、10年からは私自身がスリランカ国内を案内するツアーを開始。スパイス工場など一般的なツアーでは回らない場所をご案内していました。旅行業に本腰を入れることにして、14年にコロンボに現地法人を設立。翌年に自分の拠点も日本からスリランカに移し、20年まで暮らしていました。
――20年2月にユーチューブで「スリランカTV うっちゃんねる」を始めたきっかけは?
内海 19年4月にスリランカで発生した連続爆破テロを境に日本人旅行者が激減したので、ツアー業以外のことをやりたいと思ったのが理由です。新型コロナウイルスとは関係なくスタートしたのですが、自分が日本に一時帰国したタイミングで感染拡大が本格化。スリランカに再入国できず、図らずもユーチューブが現在の主な事業となり、ひたすら取り組んでいる状況です。
新型コロナの影響で、チャンネル開設から約2年間は日本からスリランカ情報を発信。主に関東地方各地のスリランカレストランを紹介する動画は人気企画の1つ。「スリランカカレーはココナツ油を使用し、具材も野菜中心で胃もたれしにくいのが特徴。日本人の口に合うと思います」と内海さん(スリランカTV うっちゃんねるのユーチューブより。以下同)
2年ぶりスリランカ渡航
経済危機で感じた国民性
――チャンネルのコンセプトは?
内海 スリランカに興味を抱くきっかけとなるチャンネルを目指しています。そういった意味で同国の魅力が伝わるものであればどんなことでもいいと思っていて、ビジネス、観光、食、語学など幅広い情報を発信しています。
――チャンネル登録者の属性は?
内海 エリア的には91%が日本で、スリランカが4%、その他の国が5%です。性別は男性6割、女性が4割。年齢的には、1番多いのが45~54歳で全体の30%。その次が35~44歳の27%。格安航空券でひょいと行けるタイなどと違いスリランカは観光にお金がかかる国で、「スリランカを好きになる人は30代半ば以降」とも言われているのですが、その傾向が表れていますね。
――使用機材や制作環境は?
内海 撮影は小型ビデオカメラのGoPro(ゴープロ)、編集はFilmora(フィモーラ)というソフトを使用。制作自体は基本的に自分1人で行っていますが、動画にはゲストのような形でシンハラ語(スリランカの公用語の1つ)の日本人講師や駐日スリランカ大使など、さまざまな方に登場していただいています。
――今年4月から3カ月間スリランカに滞在し、経済危機のさなかにある現地の様子を撮影。貴重な動画と評判です。
内海 報道だけでは実際の様子が分からず、自分の目で確かめるため2年ぶりに戻りました。やはり物価上昇とガソリン不足は深刻でした。給油のために車が何キロも並び、ドライバーは車で寝泊まりしながら順番待ちという状況。でも、歌ったりして明るいんですよね(笑)。長きにわたる内戦の経験があるからなのか分かりませんが、彼らのたくましさを改めて感じました。
今回の渡航は、休止状態の現地事務所を畳むかどうか見極める目的もあったのですが、続けられる限り維持することにしました。自分なりにスリランカの未来を応援していこうと。
ガソリン不足の実情を、コロンボ郊外のガソリンスタンド前からリポート。「移動手段の確保も困難になり、自分も帰国時に空港までたどり着けるかどうか、ひやひやの状況。ガソリンの大切さを痛感しました」(内海さん)
駄目出ししたい点だらけ
それらを含めて好きな国
――経済危機の動画からも、内海さんのスリランカ愛を感じます。
内海 前向きなスリランカを伝えていきたいという思いで動画を作っていますが、経済危機に陥るような国なので、駄目出ししたくなる点が多々あるのも正直なところ(苦笑)。でも、それを含めて好きですね。スリランカはお金儲けができる国ではありません。儲けたいならインドの方がいい。ビジネスでスリランカに関わっている人はこの国が好きだからやっている人がほとんどで、自分もその1人です。
――事業が大変な状況でも、前向きでいられる秘訣(ひけつ)は?
内海 前職を辞める際、人生をリセットしたからかもしれません。それまで仕事第一でありきたりの人生を送っていた自分と決別し、必要としてくれる人のために役立つことをして生きようと決めました。事業的には苦労していますが、やりたいことをやっているのでストレスがなく、年齢以上に元気だと言われます(笑)。
――今後の目標は?
内海 ユーチューブをライフワークとして続け、1人でも多くの方にスリランカの魅力を伝えたいです。今すぐの観光渡航は無理ですが、私の発信が将来的な旅行のきっかけになったり、スリランカ関係の商品の購買につながるなど、何かしらスリランカに貢献できる輪が広がるのが理想ですね。スリランカでゲストハウスを開業する夢もいつかかなえたいです。
――前世はスリランカ人だったと感じることや、周囲から言われることは?
内海 スリランカに通い始めた当初は何度もありました。懐かしさを感じたり、「以前ここに住んでいた」といった感覚になったり。ただ、今はないですね。日本に住んでいる日本人が事あるごとに「懐かしい」とは感じないのと同じです。
前世はともかくスリランカと縁があるのは確か。関わって約20年、今更切っても切れない関係です。
目の当たりにした経済危機への見解を語った動画。「どん底の状況ですが、見方を変えれば古い体質を改めるチャンス。うみを出し切り新しい時代に向けて変わっていってほしいですし、自分もそれを見届けたいと思いました」(内海さん)
(NNAのユーチューブより)
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エリカ・エビサワ・クスワンさん(インドネシア/日本)