NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2022, No.93

ビジネス書から語学本まで

アジア本NOW

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今号は、鉄道事業から世界の潮流に迫る新書を紹介。


鉄道ビジネスから世界を読む

小林邦宏(著)

爆走中国が生んだ新機軸

各国の鉄道事業を通じて、現在のビジネストレンドを読み解く経済本。著者は住友商事を経て独立し、世界各地でニッチな商材を見つけて事業展開する自称「旅するビジネスマン」。専門分野ではない鉄道事業を主題にしたのは、「世界のリアル」を知るための最適な切り口であるからと説明する。

そのリアルとは、西側先進国や日本が準拠するグローバルスタンダード(世界標準)の外側で、中国による「新スタンダード」が普遍性を持ちつつあることだと述べる。その新潮流の中で日本企業が生き残るためのヒントを、自身の経験を踏まえながら伝える。

例として紹介するのが中国によるアフリカでの鉄道事業。1950年代から途上国同士が支援を行う「南南協力」をアフリカで展開してきたが、近年は圧倒的な資金力で続々と新路線を開通させている。

その1つ、ケニアで2017年に開通したモンバサ・ナイロビ標準軌鉄道(総延長490キロメートル)の高架橋を、野生動物が行き交う国立公園から眺めたという著者。「雄大な大地を横断するように中国製の鉄道が走る様を想像し、大きなショックを受けた」と吐露。中国経済の「力」を物語る光景だったと回想する。

相手の資源や国土を担保とする中国のやり方は「債務のわな」と呼ばれ、スリランカのように借金漬けになり破綻するケースが散発しているが、「西側諸国は援助の時に『政治を浄化しろ』など注文が多い。対して中国は『欲しい』といえばすぐ応えてくれる」という声を、アフリカ人の代表的意見として紹介。著者も「もっともだ」と否定しない。

他にもインドネシアの高速鉄道事業の入札で日本が中国に負けた事例などを取り上げ、中国的な「太く短く」の勢いに押され、日本的な「細く長い」ビジネスが魅力を失いつつある現状を指摘。妄想的な「メード・イン・ジャパン神話」から脱却し、中国経済の圧倒的な力や世界の現実を直視した上でビジネスの仕方を転換する必要があると訴える。

ビジネスパーソンとしての心得など、鉄道の話から「脱線」したトピックスも豊富。海外事業に携わる人なら、本書から多くの気付きが得られるはずだ。

鉄道ビジネスから世界を読む

2022年8月5日
小林邦宏(著)
集英社インターナショナル
858円 電子版あり

BOOK LIST

※紹介文は版元から引用(原文ママ)

台湾鉄路千公里
完全版


2022年8月23日
宮脇俊三(著)
中央公論新社
1,100円 電子版あり

1980年、戒厳令下の台湾での全線乗りつぶしの旅のエッセイに、その後の増設鉄路をカバー、全島一周を達成した紀行を増補した完全版。

香港秘密行動
「勇武派」10人の証言


2022年7月4日
楊威利修(著)、勇松(訳)
草思社
2,200円 電子版あり

香港の自由は「暴力」でしか守れない――。中国支配の強化に暴力で立ち向かった香港の若者が、激しい戦いの日々と大きすぎる代償を包み隠さず告白した衝撃の書!

韓国の変化 日本の選択
外交官が見た日韓のズレ


2022年8月4日
道上尚史(著)
筑摩書房
946円 電子版あり

飛躍的な変化を見せる韓国とどう向き合うべきか。長く韓国に駐在し、現地事情に精通した外交官が、韓国市民の日本観を冷静に分析。日本の進むべき道を提言する。

ミャンマーの矛盾
ロヒンギャ問題とスーチーの苦難


2022年7月4日
北川成史(著)
明石書店
2,420円 電子版あり

国軍のクーデターに揺れるミャンマーで何が起きてきたのか。ロヒンギャ難民の大規模流出が始まった直後からクーデター発生のころまで、長期にわたる綿密な現地取材から、ミャンマーが抱える複雑な側面を克明に描き出す。

これからの時代を生き抜くための
文化人類学入門


2022年6月21日
奥野克巳(著)
辰巳出版
1,760円 電子版あり

本書は、ボルネオ島の狩猟採集民「プナン」との日々を描いたエッセイ『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』が話題となった人類学者・奥野克巳による、私たちの社会の“あたりまえ”を考え直す文化人類学の入門書になります。

南洋の日本人町


2022年7月
太田尚樹(著)
平凡社
968円 電子版あり

日本の海外進出の先遣隊として南洋に渡った人々は、大戦に翻弄されながらいかに生きたのか――。「南進論」に導かれて海を渡った侍や商人、職人らのほか、故郷のために身を売った「カラユキさん」と呼ばれた女性たちの足跡を追う。

新版 攻略!東京ディープチャイナ
海外旅行に行かなくても食べられる本場の中華全154品


2022年7月25日
東京ディープチャイナ研究会(編)
産学社
1,430円

都内にここ数年「チャイニーズ中華」のお店が急増している。チャイニーズ中華とは、海を渡って日本に来た中国語圏の人たちが経営し、調理する「ガチ中華」のこと。そこでは本場と変わらない中華料理が味わえる。(中略)本書を手にしてお店に足を運べば、海外でレストランに入るような楽しさが味わえるに違いない!

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