NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2022, No.92

【特集 いざ、リベンジ旅行へ②】

韓国がビザなし渡航解禁
アセアンは緩和が「売り」

新型コロナウイルス感染症の流行後、厳しい入国規制を続ける東アジアの国・地域が多い中、韓国が外国人観光客の取り込みに向けて動き出した。インバウンド需要への依存度が高い東南アジア諸国連合(ASEAN)も入国規制を緩和し、数年ぶりの海外を楽しみたい人々の旅心に訴える。(編集部 古林由香、NNA韓国 清水岳志)

朝鮮王朝時代の王宮・景福宮の正門前。日本人観光客にも定番の観光スポットで、レンタルした伝統衣装を着て巡るサービスも人気=8月4日、ソウル(NNA撮影)

韓流ブームを追い風に、日本人の人気渡航先の1つになっていた韓国。新型コロナ流行後は、日本から観光目的の渡航が認められない状態が続いていたが、今年6月、韓国政府は短期滞在査証(ビザ)の発給を再開。観光客としての渡航が可能になった。

しかし、ビザ申請初日から希望者が在外公館に殺到。受け付けをオンラインでの予約制に変更したものの、その予約自体も取りづらい状況が続き、「航空券、宿泊先も確保したのにビザが取れない」など渡航希望者から不満の声が上がっていた。

そのさなか、韓国政府は8月4日から日本と台湾、マカオの3カ国・地域を対象に短期滞在ビザが免除されるノービザ入国制度を解禁。当初は8月限定としたが10月末まで延長した。コロナ禍で最も被害を受けた観光業を支援するため、6月から政府にノービザ入国の再開などを働きかけてきたソウル市は、今回のノービザ特例が観光業の回復につながると期待する。

同市は8月10~14日に観光振興イベント「ソウルフェスタ2022」を実施し、K-POP歌手が出演するコンサートや、電気自動車(EV)のレース「フォーミュラE」を催した。商業施設などで割引特典が受けられる「ソウルショッピングフェスタ」も同月に開催。日本語、中国語、英語の専用サイトを開設し、プロモーションに起用したドラマ『イカゲーム』の主演女優、チョン・ホヨンを通じて来韓を呼びかけた。

同市の広報担当者はNNAに対し、「外国人観光客にソウルの魅力を満喫してもらいたい」と話した。

日本など3カ国・地域が対象に選ばれたのは、コロナ禍前の訪韓者数が多いことや、エンデミック(日常的に流行する感染症)への移行が進むにつれて現地で訪韓ニーズが高まっていることが背景にある。

韓国観光公社によると、コロナ禍前の2019年に韓国を訪れた外国人観光客は日本が約327万人で中国に次ぐ2位、台湾が約126万人で3位だった。マカオは約5万人(23位)と訪韓者数は少なかったが、対象に含まれたのは「1日の新規感染者ゼロ」など感染状況が比較的落ち着いているためとみられる。

1位の中国は約602万人で、全体の約34.4%を占めていた。しかし、コロナを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」による厳しい海外渡航制限が続いていて、早期回復は見込めない状況だ。

隔離と検査免除が鍵
日本も9月から緩和

フィリピンの空の玄関口、ニノイ・アキノ国際空港=3月、マニラ首都圏(NNA撮影)

日本での海外旅行商品の販売に目を向けると、旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)では今年5月から海外パッケージツアーの販売を再開。アジア圏では6月に再開したタイのバンコクを皮切りに、8月末までにベトナム、マレーシア、韓国などのツアーが再開している。「旅行先として、入国条件が緩和されている国・地域が選ばれている」とは広報の宇佐美加奈さん。

同社が8月12日に発表した9~11月出発の海外旅行商品(ツアー、航空券と宿のセット、航空券)の予約者数ランキングでは、1位のホノルル(米国ハワイ州)に続き、2位バンコク、3位ソウル、5位シンガポールと入国規制を緩和したアジアの人気都市が上位にランクインした。

タイ、韓国、シンガポール以外のアジア各国も、観光産業の中でインバウンド需要が占める割合が大きいASEANを中心に、外国人観光客への入国規制の緩和を進めている。いずれの国も、新型コロナの感染状況が抑制的であることが緩和を後押ししている。

ベトナムは、3月15日から陰性証明書の提示を条件に入国後の隔離を撤廃し、外国人観光客の受け入れを全面的に再開。また同日から日本など指定国を対象にビザ免除措置も再開した。

インドネシアでは、3月7日からバリ島で日本など指定国からの外国人観光客を対象に隔離なし入国と到着ビザ(VOA)の発給を開始。3月下旬にはワクチン接種完了者の隔離を撤廃した。5月10日からVOAの発給対象を拡大し、発給する入国玄関口も追加している。

マレーシアとフィリピンは、全ての国・地域を対象に4月1日からワクチン接種完了者に対する入国後の隔離を撤廃。マレーシアは8月1日以降、ワクチン未接種・未完了に対しても隔離を撤廃した。

カンボジアはいち早く、21年11月15日からワクチン接種完了を条件に外国人観光客の隔離を撤廃。今年7月11日には、ワクチン未接種・未完了に対しても隔離を撤廃した。

一方、日本は新型コロナの流行「第7波」が続いているが、政府は「ウィズコロナ」に向けた新たな段階への移行として水際対策の緩和に踏み切る。滞在地で行う日本入国・帰国前のPCR検査については、 ワクチン3回接種を条件に9月7日から免除。1日当たりの入国者数上限も、現行の2万人から5万人に引き上げる。

「帰国前検査で陽性になり、いわゆる帰国困難者になるのが怖く海外渡航を踏みとどまっていたが、これでハードルが大幅に下がった」と40代の日本人女性。検査免除のニュースを聞き、韓国の男性音楽グループBTS(防弾少年団)の公演を観るため10月に渡韓する決断をしたという。

日本国内で感染者数が高止まりしている中での緩和に懸念する声もあるが、数年ぶりに海外を楽しみたいという「リベンジ旅行」の機運が高まるのは間違いなさそうだ。

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