【アジアに挑む】
アジア駐在員も感激
おいしい卵と日本米
日本企業にとって、アジアでの事業環境が変わった。コロナ規制は続々と緩和されている。円安は、海外展開には追い風だ。今回はインド在住の日本人が待望した鶏卵大手による現地販売の展開と、香港で家庭用需要の開拓に取り組むコメ専門店を取り上げる。
【to インド】
アジア駐在員も感激
鶏卵大手イセが実現
イセ・スズキ・エッグ・インディアがインドで販売を開始した鶏卵は、卵かけご飯で食べることができると在留邦人の間で話題を呼んだ(NNA撮影)
鶏卵最大手のイセ食品(東京都千代田区)は、インドで鶏卵の販売を開始した。日本水準の衛生管理などにより「生でも食べられるほど安心安全なタマゴ」を武器に売り込む。
「卵かけご飯ができる」とうわさが広がり、6月27日の販売開始日には在留邦人が取扱店に駆け付けた。価格は6個入り110ルピー(約190円)。ある食品店の店長は、夕方に到着した初回分は翌日の午前中で完売したと話す。
自動車製造大手のスズキと共同で設立した現地法人のイセ・スズキ・エッグ・インディアを通じて販売。北部のデリー首都圏(NCR)と連邦直轄地チャンディガル周辺で展開する。
鶏卵は食中毒の原因となるサルモネラ菌に汚染されている恐れがある。現地法人の高橋美都子最高執行責任者(COO)によると、インドの鶏卵はきちんとした洗浄処理がされていないことが多く、生食できる卵はほぼ無いという。
同社はデリー近郊でOEM(相手先ブランドによる生産)を行う。養鶏場を持ち、鶏卵の加工食品を製造する地場企業の敷地に、卵の洗浄から出荷まで手掛ける「鶏卵選別包装施設(GPセンター)」を設置した。
施設は日本と同じつくり。採取した鶏卵を次亜塩素酸の入ったぬるま湯で洗浄し、紫外線で消毒。乾燥させて菌やカビを防ぐ。温度管理された衛生エリアでパッキングなどを行う。「インドでここまでやっている企業は見たことがない」(高橋氏)。同工場はサルモネラ菌の検査を実施し、検出ゼロだった。輸送時も摂氏15度の温度管理を徹底している。
顧客層は中産階級
トップ企業目指す
商品名は「イセ・エッグ・プレミアム」。パッケージでは日本のブランドイメージを前面に打ち出す。発売数日前からツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどのSNSで告知。消費者の期待感を高めた。(同社の公式フェイスブックより)
顧客は現地の「教養があり食べ物への意識が高い中産階級」がターゲット。生食を売りにするのではなく、「生で食べる日本と同じ衛生基準で生産した卵という安全性と新鮮さ」(高橋氏)を武器に取り込む。
価格は高級鶏卵で知られる地場「ケッグズ」などよりも、やや安いか互角に設定。高橋氏は「競合の売りは栄養価」とした上で、「当社の売りは『安心安全』。栄養価が高いことは前提だ」と違いを強調する。
日本は1人当たり年間300個以上の卵を消費するのに対し、インドは100個未満。インド政府は子どもの栄養状況の改善に向けて卵の消費を推進しており、拡大が見込まれる。同社の養鶏場は、向こう3~5年で現在の約10万羽から100万羽体制への拡大を目指す。西部や東部への展開も見据える。
目下は加工食品事業の開始も計画中だ。高橋氏は「加工食品を含めたタマゴの総合メーカーとして、インドの誰もが知るナンバーワンのブランドになることがわれわれの目標」と語った。
(榎田真奈)
【to 香港】
精米したてがうまい
ドンキのコメ専門店
尖沙咀で開業した「安田精米」1号店。「精米したてのおいしさ」にこだわる=7月4日、尖沙咀(NNA撮影)
総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、香港でコメ専門店「安田精米」を開業した。店内に精米機を備え、注文を受けて精米する。日本のコメ輸出の約4割を占める最大の仕向け先である香港で、「精米したてのおいしさ」を家庭に届ける。
6月24日、海外向けブランド「ドンドンドンキ」の美麗華広場2店(ミラ・プレイス2、九龍地区・尖沙咀)内に開いた。すし専門店も手掛ける香港法人の泛亜零售管理(香港)が主導する、グループ内の初業態だ。
日本のスーパーは精米1カ月以内のコメを売ることが多いが、香港では「数カ月、半年以上たった日本米も店頭に並んでいる」と同社。1カ月以上たつと酸化で味が落ちるため、昨年9月に日本から精米機を運んで自社の精米所を設けた。
香港のドンドンドンキ全店で扱うコメを自社精米に変更。すし専門店のシャリにも使ったところ、客から「コメがおいしい」と反響があり、コメ専門店の開業を決めた。
消費者が精米日を気にしない香港で、安田精米は「精米したてがおいしい」ことの周知に注力する。店頭には業務用に加え、小型の卓上精米機を設置。2合(300グラム)から購入可能とし、2合の注文には卓上精米機を使ってコメが磨かれる様子を見られるようにした。健康志向の高い香港の消費者を意識し、白米より栄養価が高いとされる一分づき(一分精米)や三分づき、七分づきの注文にも対応する。
安田精米ができたことを知らずに訪れた女性客の羅さんは「普段は玄米を食べているけど、お試しで三分づきを300グラム買ってみることにした」と話すなど、狙い通りに購入する客が現れている。
家庭への普及図る
おにぎりで味PR
品種は「冷めてもおいしい」こと、「北海道産」は香港人に訴求力が高いことなどから、道産の「ななつぼし」に決定。値段は1キロ59HKドル(約1,000円)=7月4日、尖沙咀(NNA撮影)
日本から輸送した精米機を店内に設置。手前にある卓上の小型精米機で、精米体験もできる=7月4日、尖沙咀(NNA撮影)
香港に輸出する日本米は約5割が飲食店向け、2割がおにぎりなど加工商品向けで家庭用は3割以下。家庭で日本米を食べる習慣はほとんどないが、安田精米が目指すのは「一般家庭への普及」だ。
最初から精米を買うのはハードルが高いことから、店頭では7種類の具材のおにぎりも販売。夕方ともなると、レジ前はおにぎりを求める客でにぎわう。同社は「おにぎりがおいしかったから次はコメを買ってみよう、というサイクルが生まれれば」と期待する。
取り組みは香港以外にも広げる。7月7日には、台湾のドンドンドンキ既存店に同様のコメ専門店「やすだ精米 忠孝新生」を開業した。こちらでは新潟産コシヒカリを販売する。「香港や台湾を皮切りに、東南アジアにも日本米を広げていきたい」(同社)。
(天野友紀子)