【インフルエンサーinアジア】
「本音でわかりやすい」
台湾美食を3つ星評価
ゾロさん
SNSで多数のフォロワーを持ち、強い影響力を持つインフルエンサーが注目を集める昨今。そんな彼・彼女たちの中から、日本とアジアをつなぐインフルエンサーをご紹介。(編集部 古林由香)
1979年、大阪市生まれ。中学卒業後、すし店での見習いを経て調理師免許取得。2010年に渡豪し、現地レストランで副料理長を務める。13年から6年間、ギターの弾き語りをしながら世界65カ国・地域を訪問。19年11月から台湾在住。動画クリエーターとしてSNSで台湾グルメ情報を発信中。「ニックネームのゾロは漫画のキャラクターから。本名の裕(ゆう)は、海外だとYOU(あなた)と勘違いされがちなので付けました(笑)」(本人提供)
Instagram :ゾロの台湾グルメ(zorro_taiwangourmet) 6,254人
Twitter :ゾロの台湾グルメ(@yuu_horii_zorro) 1,553 人
※22年7月22日現在
グルメをテーマにしたユーチューブ動画は数多くあれど、台湾に特化し人気を集めているのが「ゾロの台湾グルメ」だ。運営者のゾロさんは大阪生まれの日本人男性で、現在は台北市に在住。調理師として働いた後、世界一周旅行を経てユーチューバーになった。2020年3月に開始したチャンネルでは「本音で、分かりやすい」「安いは正義だ」をポリシーに、ローカル食堂を中心として台湾各地の美食を紹介。独自の3つ星評価システムや、軽妙ながら誠実な人柄がうかがえるトークも好評だ。
――台湾でユーチューブを始めた経緯は?
ゾロ すし店を皮切りに、15歳からいろいろな飲食店で働き、31歳でオーストラリアに渡ったのですが、希望していた永住権取得を事情があり断念。心が空っぽになった時、渡豪本来の目的が、世界一周旅行をするために英会話力を身に付けることだったことを思い起こしたんです。とはいえお金がなかったので、路上パフォーマンスでチップを稼ぎながら旅することにしました。それが34歳の時です。
6年ほど世界各地を回っていたのですが、旅の3年目から毎年冬に来ていたのが台湾。人が温かいし居心地もいいし、ご飯もすごくおいしい。旅を終えて、そろそろどこかに定住し、以前から興味のあったユーチューバー活動をしたいと思った時、自然と台湾が浮かんできて、2019年秋にまた戻ってきました。
――グルメに特化した理由は?
ゾロ 実は、最初は「ジャパニーズサムライ」というチャンネル名で、はかまをはいて日本文化を英語で紹介する動画を作っていたんですけれど、台湾から発信する動画として違うなって(苦笑)。他にもゲーム実況など試行錯誤する中、日本人向けの台湾グルメ紹介がしっくりきたんです。
もともと調理師ですし、世界一周していた時も食べ物だけにはお金を惜しまず使っていたくらい食べることが大好き。「そうだ、これだ!」と思い、今のチャンネルを20年3月にスタートしました。
――3つ星の評価システムが分かりやすいと好評です。
ゾロ 3つ星が「自信を持ってお薦めできる店」、2つ星が「安くておいしく値打ちがあるお薦め店」、1つ星が「安くて値打ちもあるけど、好みが分かれそうな店」としています。
この評価は、途中から取り入れました。というのも、お店にランクを付けたら傷つく人たちもいるかもしれないと躊躇(ちゅうちょ)して。でも、本当においしいものに出合った時に自信を持って薦めたいと思い直し、星システムを採用しました。
朝食の行きつけにしている24時間営業の屋台村を紹介。台湾独特の汁物や平打ち麺など、ローカル感あふれるグルメが次々登場。チャンネル内で一番の再生回数を記録(ゾロの台湾グルメのユーチューブより。以下同)
黄色のTシャツ姿
分かりやすさ追求
――チャンネル登録者の属性は?
ゾロ 約95%が日本、5%が台湾です。日本人はチャンネル登録したら定期的に見てくれる傾向があるので、僕としては理想の割合です。年齢のボリュームゾーンは45歳から65歳で、男女比は男性6割、女性4割です。
――使用機材は?
ゾロ 撮影は米アップルの「iPhone(アイフォーン)11プロ」の内蔵カメラで、編集ソフトは同じくアップルの「ファイナルカット・プロ」。最初からこのソフトにしたのですが、コピー&ペーストすら知らない状態だったので、初心者向けの解説動画で一から勉強しました。
――最初の9カ月ほどは毎日更新、現在も週3回というハイペースですが、制作スケジュールは?
ゾロ 撮影自体もだいたい週3回、1回につき2、3時間はカメラを回しています。尺も最初は1本2~3分だったのが、どんどん長くなって最近は30分前後。編集も時間がかかるようになり、1本当たり8時間くらい。作業スケジュールがきついので、今後は配信ペースを緩めることも検討中です。
睡眠や散歩といった生活ルーティーンを除き、全てをユーチューブにかけている状況ですが、楽しいですよ。幸せに生きるため、自ら行うことなので。ストレスになってしまったら本末転倒なので、そうならないように気を付けています。
――紹介する店の選定基準は?
ゾロ 看板も出ていないようなローカルな店がメインです。値段的には高くても300元(1,380円)程度。視聴者が知りたいのは、台湾でしか味わえない屋台飯とか、地元の人しか来ないようなお店の情報ということが分かってきたので、その辺を意識していますね。
――動画制作で心掛けることは?
ゾロ 「分かりやすい、面白い、役に立つ」を3原則としてやっています。いつも黄色いTシャツ姿なのも、ぱっと見て分かりやすい姿を考えての結果。自分でデザインしたのですが、おかげさまでこの姿でいるとたまに声を掛けてもらえるようになりました。
ただ最近、面白さについて迷いが生まれていて。というのも、ユーチューブの機能で、視聴者が他にどんなチャンネルを見ているか教えてくれるのですが、国内外の旅行情報を発信している「おのだ/Onoda」や、一人飲みの様子を淡々と映す「たっちゃんねる」など一切ギャグがない動画なんです。
「面白い」を外して「丁寧」を3原則に入れたほうがいいのかなと悩みつつも、自分は関西人なので、べたでもいいから面白さを入れたくなってしまうという状況です(笑)。
「台湾の休日にできること」をテーマに、グルメ以外の台湾情報も不定期で配信。本動画では、耳かきの達人が働く店を訪問。施術の一部始終を紹介し、視聴者からは「気持ち良さそう」といったコメントが寄せられた
自分の居場所
台湾に恩返し
――やりがいを感じる時、逆に苦労やつらさを感じる時は?
ゾロ たくさんの人に見てもらい、コメントや「いいね」もいっぱいもらえた時です。あとは、動画をアップし、最初から改めて見るひと時はたまらないですね。いろいろこだわって作っているので、「ええわ~」と自画自賛しながら鑑賞しています(笑)。
ただ、全ての作業を1人でやっているので、孤独感はありますね。こんな生活をしていたら友達もそんなにいませんし。あと、アンチ(攻撃的な言葉で特定人物をたたく人)からのコメントが時々来るんですが、積み重なってくると結構しんどい。ミュート(通知のオフ)など自分なりの方法で対処しています。
――ツイッターでは、啓発的なメッセージなども発信しています。
ゾロ 読書が趣味で、毎日読んでいるのですが、感動した内容を皆さんにもシェアできたらなという思いがあって。年配の方から生意気だと思われない程度につづっています。
――ユーチューバー活動を通じて感じる台湾の良さは?
ゾロ 食べ物がおいしいのは大前提として、人情だと思います。素の僕は人付き合いが下手なのですが、撮影では「明るく、楽しく、元気よく」を自分のルールにしています。そうしているとお店の人が勝手にあれこれ世話をしてくれるんです(笑)。僕がそれを動画に収めることで、視聴者にも台湾人の人情を感じてもらえたらうれしいですね。
昭和っぽさが残るノスタルジックな景色や街並みが、あちこちにあるのも魅力的。その様子を伝えたいので、お店行くまでの道のりを映すなどの工夫をしています。
――今後の目標は?
ゾロ 1,000店紹介を目標に掲げ、この2年4カ月でやっと約470店まできました。ただそれよりも、台湾に貢献することが今の目標であり目的ですね。
ギターの弾き語り旅をしていた時代から、台湾の人には優しくしてもらい、コロナ禍のビザ延長措置でずっと居られることにも感謝しています。僕の動画が台湾に興味を持つきっかけとなり、実際に訪台してお金を落としてくれたら、経済的な恩返しになる。しかも、動画はずっと残るので永続的に貢献できる。この展望が制作の原動力になっています。
将来的には就業できるゴールドカード(許可証)を取得して、ガイドブックの制作や、観光関連の企業PRなど、活動の幅を広げていけたらいいですね。
始めた時は右も左も分からなかったユーチューブの世界ですが、突き詰めていったら、自分が本当に何をやりたいか分かってきました。何か、人生に似ているなって思います。
今後の外国人観光客受け入れ再開を見据えて、台湾初心者向けのモデルコースを提案した動画。ゾロさんが3つ星を付けたお店の中でも特にお薦めの絶品グルメを紹介。「このチャンネルが、皆さんの台湾旅行のお役に立てればうれしいです」(ゾロさん)
(NNAのユーチューブより)
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