NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2022, No.90

【アジアエクスプレス】

上海、封鎖明けドキュメント
いまだ続くコロナ感染の警戒

中国上海市のロックダウン(都市封鎖)が6月1日朝、事実上解除された。上海市は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月末から順次ロックダウンを導入。それから約2カ月、市内の地下鉄駅にはマスク姿で職場に向かう通勤客らの姿が戻った。出社した会社員からは業務の効率化につながると歓迎する声が聞かれたが、感染を警戒しながらの経済活動の再開に懸念と不安を示す日系関係者も。封鎖明け直後の市内の様子を中心に、「ゼロコロナ政策」の日常を追った。(NNA上海 吉野あかね、吉田峻輔)

端午節の3連休初日、観光客らでにぎわう外灘(バンド)=6月3日、中国・上海市

端午節の3連休初日、観光客らでにぎわう外灘(バンド)=6月3日、中国・上海市

6月1日、ラッシュアワーの午前7時半。浦東新区のオフィス街、陸家嘴の地下鉄駅に、ロックダウン前の混雑は見られない。

駅の係員は皆、制服の上に防護服を着てマスクを着用。利用客も皆マスク姿だ。入場する際には「場所コード」という2次元コードをスマートフォンで読み取るよう求められた。読み取った駅の情報や直近のPCR検査結果などがスマホに表示される仕組みで、係員が一人一人のコードを念入りにチェックしていた。地下鉄の車内は空席が目立ち、会話する声は聞こえない。静かなラッシュアワーだった。

陸家嘴のオフィスビルには会社員らが続々と出勤した。ただ、感染を警戒しているのか、互いに距離を取りながら歩く姿が印象的だった。ある会社員は「意思疎通がスムーズになり、業務のスピードが速まる」と出社を歓迎した。

朝の通勤ラッシュ時の地下鉄車内には、マスク姿で職場に向かう通勤客らの姿が戻った=6月1日、中国・上海市

人出がまちまちのオフィス街とは対照的に、観光地にはにぎやかさが戻った。市中心部の繁華街、南京東路では、犬を散歩させる人や手をつないで歩くカップルが見られた。仕事の合間に集まったのか、スーツ姿の男性6人組がベンチで話し込む姿もあった。南京東路の銀行支店前に並んでいた男性は「新しい職に就いたので、会社用の口座を作りに来た」と話し、新生活に期待をにじませた。

観光名所の外灘(バンド)では屋外ということもあってか、立ち話を楽しんだり、マスクを外して記念写真を撮る人も。外灘沿いを走るランナーの姿も戻った。

「上海はもう封鎖が解除されたよ。この人波を見てよ」。外灘のベンチに座って休憩していると、隣に座った男性が電話の先の相手にうれしそうに話す声が聞こえてきた。

動き出した企業活動
24時間泊まり込みも

6月1日以降、企業活動も徐々に動き出した。みずほ銀行の中国法人は、オフィス内の防疫対策を行うため、1日には必要最低限の人員が出社した。2日からは本格的に出社を再開させ、出社状況はおおむね5割程度となった。6月下旬、中国法人の担当者は「7月から社員の出社率を100%近くまで引き上げることを検討中」と明らかにした。

オフィス街、陸家嘴のビル前の出勤風景。ビルに入る際は出入り口に設置された「場所コード」という2次元コードをスマートフォンで読み取る必要がある=6月1日、中国・上海市

オフィス街、陸家嘴のビル前の出勤風景。ビルに入る際は出入り口に設置された「場所コード」という2次元コードをスマートフォンで読み取る必要がある=6月1日、中国・上海市

出社人数に制限があるという例もあった。長寧区に本部を置くサービス業の日系企業では、オフィスビルの管理会社から社員の出社率を「原則3割以下」にすることや、退勤時に社員の抗原検査を実施することが求められたと説明。「各部門で出社する人員を日替わりで決める」(同社幹部)と話していた。

製造業が受けたロックダウンの影響を振り返るのは、金属表面処理を手掛けるエア・ウォーターNV(兵庫県尼崎市)の上海拠点、上海援維汽車配件の泉谷明伸董事長。

ロックダウンによる生産の遅れを取り戻すため、工場の空きスペースに寝具を並べて雑魚寝する従業員=中国・上海市(上海援維汽車配件提供)

松江区の同社工場では、5月中旬、生産に最低限必要な13人の従業員で約1カ月半ぶりに稼働を再開させた。遅れを取り戻すため、従業員は工場内の事務室などの空きスペースに設置した寝袋やテントで寝泊まりし、24時間体制で生産に当たった。

「泊まり込みは強制できないが、従業員は自発的に行くと言ってくれた」(泉谷氏)。その思いに応えようと、従業員には1日100元(約1,900円)の追加手当を支給した。

生産に必要な原材料は市内で入手できる体制を整え、稼働率はほどなく60~70%まで回復した。ただ高騰する物流費がコストを押し上げており、製品価格に転嫁するのが難しい中、利益率を落としながら生産を続けるしかないのが現状だ。

経済活動の中心地である上海市のロックダウンは中国経済にも大きな打撃となっている。国家統計局が発表した4月の主な経済指標は軒並み悪化した。

日系自動車部品メーカーの幹部は「中国政府がゼロコロナ政策にこだわっていることが問題だ」と指摘。ロックダウンで上海市の製造業のほとんどが生産をストップした。一方で上海市外の工場は通常通り稼働していたため、「顧客に製品供給ができず、結果として顧客が生産ラインを止めることになり、現地責任者として非常にストレスを感じた」と苦しい胸の内を明かした。

「防衛に勝った」表明
まだ遠い生活の正常化

再び6月上旬の上海市の繁華街。街中を歩いていると、スーパーや商業施設よりも多くの人が集まる場所があった。各地に設置された簡易のPCR検査所だ。天山路沿いの検査所の前には、清掃作業員ら100人以上が列をつくっていた。

上海では当面の間、交通機関の利用、オフィスや商業施設への出入りなど、さまざまな場面で48時間以内か72時間以内の陰性証明が必要になる。さらに上海市政府は6月15日の会見で、7月末まで住民を対象にPCR検査を毎週末実施すると発表。6月末現在も、2~3日おきのPCR検査に加えて、週末の検査が常態化している。

上海市トップの李強・市共産党委員会書記は6月25日、中国共産党の上海市代表大会の開幕式で、新型コロナ流行に関して「上海防衛戦に打ち勝った」と表明。隔離管理エリア以外での感染拡大を抑え込んだと強調した。ただ6月末のいまも映画館やスポーツジムの営業は見合わせており、市民生活の正常化には時間がかかっている。

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